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Be praying. Be praying. Be praying.
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自分にとてもとてもよく似た顔かたちをした少年は、彼女にとてもとてもよく似た顔かたちをした少女と繋いでいた手をいともたやすく離して昌浩の眼前に歩み寄った。昌浩は思わず眩しいものを見たように目を細める。
 ああ君はそんな風に簡単に手を離せるんだね。もう一度いつでも繋げると信じて疑わずに。
 そしてそれは少年の思い込みなどでは決してないのだろう。
「……俺?」
 少年はそう言って梟のように首を傾げた。胡乱げな目線を受けて、昌浩はかぶりを振る。
「たぶん、違う」
 ふうん、と少年は鼻を鳴らした。
 少年は、そして少年の後ろで自分たちを見ている少女も、昌浩が今までに見たことのない衣装
、この国のものでも異国のものでも、遠い西国のものでもなさそうなものを身に纏っている。とりわけ少女の服は裾がとても短く太腿までを晒している。神将でもないのに、人間の女の子がそんな格好をするなんて。ありえないといっていい。そのありえなさが、同時に自分と彼女が眼前の少年少女と重なり同じ道を辿れる未来を気持ちいいほどに全否定している気がした。
「……あの子、さ」目線を少女に向けると、少年も少女を振り返った。少女はきょとんと瞬きを繰り返す。あの子も何度だってこんな表情を浮かべた。「大事?」
「え!?」
 唐突な昌浩の言葉に少年は目に見えて動揺した。少年と言っても年齢は昌浩と同じくらいだろう。背丈も肩幅も変わらない。声は自分のものとは少しだけ違う気もしたが、他の人が聞いたら自分とまったく同じである気もする。
 頬を赤らめてしばらくあわあわとしていた少年は、やがて目線をやや上向きに彷徨わせると、ひとつ、深く頷いた。
「……うん。すごく、大事な子」
 昔、螢に同じ台詞を告げたことを思い出した。
「結婚とか、するの?」
 そして昌浩はあの時の螢と同じ言葉を重ねて問いかける。
 少年はまた素っ頓狂な声を上げてあわあわしていたが、そのうちに今度は少し俯いて、躊躇いがちに小さく頷く。同じくらい小さな声で、ぽつぽつと言った言葉はあの日の昌浩のものとは少しも重ならない。
「できたら…まだ、分からないけど……。そうなったらいいな、と、思う」
「――そっか」
 どうしてだか、昌浩はとても自然に笑えた。
「俺もさ、いるんだ。すごく大事な子。あの子によく似てて」
 でも、と続けた昌浩は少年の顔を確認する。そんな可能性を考える必要のない、自信と幸福に満ちた自分と同じ顔を。
「でも、俺は無理なんだ。一緒になれない」
「……なんで?」
「違うから。いろんなものが」
 けれどほんとうは彼女との糸はもっとずっと早くに途切れてしまうはずだったもので。ずっと護るよ。そう言って合わせた御簾越しのてのひら。さよなら、どうか幸せに。それだけを祈って見送った出車。そこで終わってしまうはずだった昌浩と彼女の物語は、けれどそれから先もう少しだけ許された。あの頃は何も考えなかった。目の前の少年少女のように、触れられなくなる日が来るなんて忘れたままいくつも積み重なった幼い幸福と満ち足りた記憶。望むべくもなかったそんなものを貰ったから、だからもう充分だと、昌浩は本気でそう思っていたのに。
 それでも。
「……羨ましいよ。君とあの子が。君になりたいくらい、羨ましい」
 何かを察したのか、少年は少し目を伏せた。
 その時突風が吹いた。春一番のように激しく、けれどほんの少しの優しさを交えて。思わず瞼を閉じる。風が止んで目を空けた時には、少年は踵を返し少女の手を屈託なく取っているところだった。
「行こう、彰子」
 少年が呼んだ名前に瞠目する。
 立ちすくむ昌浩から離れていく二人の先にいくつもの人影がある。皆見たことのない服装で、けれど皆昌浩の知っている顔かたちをしていた。両親がいる。兄がいる。祖父がいる。紅蓮たち十二神将が――何人かは髪色と目の色が異なっているようだったが――いる。さらには比古や螢、斎、中宮章子まで。
「…………いいなぁ」
 無意識に呟く。昌浩は、何故か少し、微笑んでいた。
 何が違ったのかな。もうこちらを見ない少年の背に問いかける。
 君たちと俺たちと何が違ったのかな。
 君とその子のように俺とあの子の背景がまっさらだったら、俺たちも君たちのようになれたのかな。
「ほんとに、いいな……」
 どうしようもなく羨ましくて、どうしようもなく眩しくて、そしてどうしようもなく、目頭の奥が熱かった。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

今萌えてるもの
・紅勾、青后、勾+后(@少年陰陽師)

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