Be praying. Be praying. Be praying.
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不満があるわけではないがしかしやはり何か違うのではないだろうか、という紅蓮の疑問は「あまり深く考えるな」という台詞でさっくりと存在を却下された。
「あのな、お前、原因が何を」
「お前が世話を焼きたがっているだけだろう」
確かに勾陣が作ってくれと頼んできているわけではない。人のことには良く気付くくせに自分のことには基本無頓着な勾陣が食事にまで無頓着なのを見かねた紅蓮がちゃんと食えとばかりにアパートに上がり込んで台所を占拠しているだけ、とは言える。
とはいえ人の好意を無碍にするような台詞に引っ掛かりを覚えて紅蓮の目が据わる。勝手にやっているようなことではあるのだが、と自分を落ち着かせる理屈を脳内で捏ねたタイミングで、テーブルの45°向かいに座っている勾陣がスプーンを口に運んで「美味しい」と笑った。どう考えても計算である。だがその計算通りに頬が緩んだ自分がいて結構どうしようもない。
四限後の休み時間にすれ違った際、今日何が食べたいと聞いてオムライスと答えられたのでリクエストに応じた。その際教室移動を共にしていた友人に何か違わないかそれと突っ込まれたのが冒頭の疑問に繋がる。ちなみに卵は半熟のやつがいいと言われたのは無視した。そんなものを紅蓮に求められても困る。
「不満があるなら明日は私が作ってやろうか」
「いや、そういう問題でもないんだが」
「そういう流れじゃないのか、これは」
「……そうなるのか?」
言われてみればそうなる気もする。
煮え切らない紅蓮に「じゃあどうして欲しいんだ、お前は」と勾陣は呆れ顔だ。
だがその答えは最初から一貫して決まっている。
「俺はお前がちゃんと食ってちゃんと生活してればそれでいいんだが」
「ちゃんと食べているだがな」
「どこがだ。平気で飯抜くだろお前」でなければわざわざ紅蓮が俺が作ってやるからとにかく食えなどという理屈で彼女の部屋の台所を動き回るわけがない。「器具も食材も調味料も揃ってるんだから飯くらい毎日食べろ、コンビニでもいいから」
「面倒だ」
「食事を面倒とか言うなよ……」
一言で言いきられて力の抜けた紅蓮に勾陣はかまわず追撃をかけた。
「いや、食べるのじゃなくて、作ったり買ったりするのが」
「……さいですか」
そうだよなそもそもこの程度の説教で生活習慣が改善するくらいなら俺が強硬手段に出る必要性もないよな、あぁうん知ってる実はちょっと諦めてる、と紅蓮は息を吐いて自分の分のオムライスをつついた。そもそも勾陣は人並み以上の手先の器用さを相殺するくらいに大雑把な性格をしていて本人はそれを是正するつもりもない。
「それに、自作や外食よりお前の料理の方が好きだしな」
スプーンを口に運ぼうとしていた手が止まった。勾陣を見やるとうっかり目が合った。口を動かしながらどうしたと問うてくるその視線に先ほど見えた計算の気配は見当たらない。
「……勾、いまのは」
「なんだ、聞こえなかったのか?」
麦茶を一口飲んで、せっかく褒めたのに、と言う勾陣の声音は何の意図も見当たらず透明だ。
勾陣は頭がいい。そしてとてもいい性格をしている。少なくとも紅蓮に対しては自分の言動がもたらす結果を把握した上でくつくつ笑いながら紅蓮を転がそうとする。そして紅蓮はたまに文句を言いつつ結局いいように翻弄されている。だが紅蓮にとって真にたちが悪いのが稀に覗かせる無意識の本心だ。
しかしやっぱり何か違う。というか、逆である。少なくとも今の彼女の台詞の類を一般的に口にするとされているのは男の方で、台詞だけ抜きだしたらきっと夫から妻へとかそういう分類だ。
ここでもうしょうがないか勾だしと諦めてしまうのが彼の敗北の原因なのだろう。とは言えたぶん世間一般的な女を勾陣に求めることはきっとさらに間違っている。
そして勾陣が美味しそうに自分の料理を食べている様を見ることは紅蓮の幸せの一つでもあるので、結局まあいいかという結論に落ち着くのである。そういう意味であまり深く考えるなという勾陣の台詞は正しいのかもしれない。深く考えたところで行き着く結論が同じなら無駄に考え込むのは確かに不毛だ。
紅蓮の頭の中で既に何度目かになる一人議論がそんな風に終幕した頃、「ごちそうさま、美味しかったよ」と勾陣が手を合わせた。
「あのな、お前、原因が何を」
「お前が世話を焼きたがっているだけだろう」
確かに勾陣が作ってくれと頼んできているわけではない。人のことには良く気付くくせに自分のことには基本無頓着な勾陣が食事にまで無頓着なのを見かねた紅蓮がちゃんと食えとばかりにアパートに上がり込んで台所を占拠しているだけ、とは言える。
とはいえ人の好意を無碍にするような台詞に引っ掛かりを覚えて紅蓮の目が据わる。勝手にやっているようなことではあるのだが、と自分を落ち着かせる理屈を脳内で捏ねたタイミングで、テーブルの45°向かいに座っている勾陣がスプーンを口に運んで「美味しい」と笑った。どう考えても計算である。だがその計算通りに頬が緩んだ自分がいて結構どうしようもない。
四限後の休み時間にすれ違った際、今日何が食べたいと聞いてオムライスと答えられたのでリクエストに応じた。その際教室移動を共にしていた友人に何か違わないかそれと突っ込まれたのが冒頭の疑問に繋がる。ちなみに卵は半熟のやつがいいと言われたのは無視した。そんなものを紅蓮に求められても困る。
「不満があるなら明日は私が作ってやろうか」
「いや、そういう問題でもないんだが」
「そういう流れじゃないのか、これは」
「……そうなるのか?」
言われてみればそうなる気もする。
煮え切らない紅蓮に「じゃあどうして欲しいんだ、お前は」と勾陣は呆れ顔だ。
だがその答えは最初から一貫して決まっている。
「俺はお前がちゃんと食ってちゃんと生活してればそれでいいんだが」
「ちゃんと食べているだがな」
「どこがだ。平気で飯抜くだろお前」でなければわざわざ紅蓮が俺が作ってやるからとにかく食えなどという理屈で彼女の部屋の台所を動き回るわけがない。「器具も食材も調味料も揃ってるんだから飯くらい毎日食べろ、コンビニでもいいから」
「面倒だ」
「食事を面倒とか言うなよ……」
一言で言いきられて力の抜けた紅蓮に勾陣はかまわず追撃をかけた。
「いや、食べるのじゃなくて、作ったり買ったりするのが」
「……さいですか」
そうだよなそもそもこの程度の説教で生活習慣が改善するくらいなら俺が強硬手段に出る必要性もないよな、あぁうん知ってる実はちょっと諦めてる、と紅蓮は息を吐いて自分の分のオムライスをつついた。そもそも勾陣は人並み以上の手先の器用さを相殺するくらいに大雑把な性格をしていて本人はそれを是正するつもりもない。
「それに、自作や外食よりお前の料理の方が好きだしな」
スプーンを口に運ぼうとしていた手が止まった。勾陣を見やるとうっかり目が合った。口を動かしながらどうしたと問うてくるその視線に先ほど見えた計算の気配は見当たらない。
「……勾、いまのは」
「なんだ、聞こえなかったのか?」
麦茶を一口飲んで、せっかく褒めたのに、と言う勾陣の声音は何の意図も見当たらず透明だ。
勾陣は頭がいい。そしてとてもいい性格をしている。少なくとも紅蓮に対しては自分の言動がもたらす結果を把握した上でくつくつ笑いながら紅蓮を転がそうとする。そして紅蓮はたまに文句を言いつつ結局いいように翻弄されている。だが紅蓮にとって真にたちが悪いのが稀に覗かせる無意識の本心だ。
しかしやっぱり何か違う。というか、逆である。少なくとも今の彼女の台詞の類を一般的に口にするとされているのは男の方で、台詞だけ抜きだしたらきっと夫から妻へとかそういう分類だ。
ここでもうしょうがないか勾だしと諦めてしまうのが彼の敗北の原因なのだろう。とは言えたぶん世間一般的な女を勾陣に求めることはきっとさらに間違っている。
そして勾陣が美味しそうに自分の料理を食べている様を見ることは紅蓮の幸せの一つでもあるので、結局まあいいかという結論に落ち着くのである。そういう意味であまり深く考えるなという勾陣の台詞は正しいのかもしれない。深く考えたところで行き着く結論が同じなら無駄に考え込むのは確かに不毛だ。
紅蓮の頭の中で既に何度目かになる一人議論がそんな風に終幕した頃、「ごちそうさま、美味しかったよ」と勾陣が手を合わせた。
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