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Be praying. Be praying. Be praying.
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応えたかった。



うそつきのお話。
いつか書こうと思ってたんですがこれもある意味「嘘」の話になるなと思ったので今日中に。
エイプリルフールのルールには違反していますけども。



無理矢理のぬるい性描写を含みます。紅蓮がわりかし最低です。注意。

 時折壊れそうに目を閉じていたことを知っていた。実を結ばない感情を疎んでいたことを知っていた。なくしてしまいたがっていることを知っていた。愛情が猛毒でしかないことを知っていた。優しさが刃にしかならないことを知っていた。叶うことのないまま持て余した感情が彼女を何よりも苛んでいることを知っていた。嫌いたがっていることを知っていた。いっそ憎みたがっていることを知っていた。
 ――だから、傷つけるために、手を伸ばした。

 涙に滲む黒曜の双眸が、深淵まで燃え盛る怒りを黄金に煌めかせながら男を睨む。紅蓮はわずかも怯むことなくそれと相対すると、残忍なほど優しく微笑んでみせた。視線だけで人を殺せることが可能だとしたら、これでいったい何度目の死が訪れたことだろうか。彼女の絹布と腰帯でひとつに纏められ、腕一本で頭上に縫い付けられた細腕がそれでも抵抗を諦めずにもがく様が不思議なほど愛おしく哀れだ。苦しげな呼吸が耳朶を刺す。ふと思い立って口づけをした。顔を背けて逃げようとしても、組み敷かれのしかかられているこの状態でそれが叶うわけもない。しかしただ奪うことはあっさりと叶っても、触れた瞬間に唇を思い切り噛まれてこちらから逃げざるを得なかった。じくじくと脈打つように鈍く響く痛みと広がる鉄のにおい。絶望の色を宿しながら拒絶を失わず憎悪を芽吹かせる漆黒の輝き。勾陣には見えないようにほくそ笑む。――それでいい。
「騰、蛇……やめ…ろ、嫌だ、騰蛇……」
 かつて聞いたことのないほど、恐れ、震え、拒み、沈み、挫けた声。紅蓮は思わず細腕を縫いつける手に力を込めた。痛みを堪える声が血の気の失せた薄い唇の端からかけそく零れた。
「離せ、と…」
「黙れ」
 冷酷に言い放つ。驚くほど寒々しい声が出た。
 乳房を揉まれ、先端を食まれ、肉芽を摘まれ、内壁を指で抉られ、それでも女の肉体に快楽の気配はない。当然だ。感情を置き去りにされた行為が熱を伴うわけもない。それでも自らをせめて守ろうと、彼女の体は蜜を吐く。たったそれだけの事実が勾陣をこれ以上なく責め苛み、崇高で在らんとする心を恥辱で汚していく。紅蓮にはその様がはっきりと見えた。凛と誇らかだった心が欠けていく。割れていく。ぼろぼろに朽ちるその箇所はすべて紅蓮の色をしていた。紅蓮のことを思っていた。それが、すべて、死んでいく。
 愉快だ。
「やめ、ろ、騰蛇、今なら……今なら許してやる、だから…!」
「聞こえなかったか」
 拘束する手にさらなる力を込める。細い手首が小さく軋んだ。掴まれ縛られているその場所は、とうに痣ができている。
「黙れと言った」
 とうだ、何もかも砕かれた声が諦めたように空気を震わせることもなくぽたりと落ちると、応えるように彼女のまなじりを涙が伝っていった。それでもいざ脚を開かせようとすると抵抗はいっそう懸命なものになる。悲しいまでの男と女の差が、それをまったく無価値なものにする。腕力はもとより、爆発させようとした神気さえ、その前に紅蓮の火の気に相殺される。どのような状況下においても、本気の紅蓮に勾陣が叶うわけがないのだ。絶対的な力の差。今まで紅蓮がそれを暴力に転換したことは一度たりともなかったけれど、これが最初の、そして最後の一度だけれど、それを分からない彼女でもあるまいに、勾陣は抵抗を諦めない。
「嫌だ、嫌だ、騰蛇……! やめ、ろ…やめてくれ……いや、だ…」
 ふ、と。
 押し殺していたものが目覚めた。
 優しくしたい、と思った。
 それを打ち消して、押し入る。
 狭いその場所。
 細く溢れる鮮血。
 何かが軋む音がした。
「ぁ、か……っつぅ……!!」
 苦痛を訴える声ばかりが聞こえた。きつく閉じられた瞼から溢れる雫が際限なく溢れては線を刻んで地に落ちた。犯してしまえば結局女は悦ぶなんて身勝手を極めた男の妄想はとどのつまり妄想でしかなくて組み敷いた彼女は痛がるばかりだった。それは正しいことのように思われたし、都合のいい妄想が事実だったらよかったようにも思われた。紅蓮はと言えば空虚ばかりが笑っていて、暴力的に貪っているはずの快楽がひどく曖昧だった。無理矢理に動くたび女ののどが苦しげに震えていた。ひたすら苦痛に喘ぐ声は鋭く胸を刺した。なぜ、などと自問はしなかった。紅蓮の意志も理性も堅牢なまま、冷静に現実を見つめていた。勾陣は何度も紅蓮を呼んだ。騰蛇、騰蛇、騰蛇、騰蛇、騰蛇。まさにいま自らを犯す男を、まるで助けを求めるように、何度も。否、彼女は真実紅蓮に助けを求めていたのかもしれない。紅蓮は決して呼びかけに応えなかったし、彼女が欲しがっているたったひとつの言葉を分かっていながら腹の底に仕舞い込んだまま丁寧に隠していた。それでも勾陣は紅蓮を呼び続けた。騰蛇。寄る辺を知らぬ子供のように。騰蛇。他の言葉を知らないように。騰蛇。騰蛇。騰蛇。騰蛇。騰蛇。――とうだ。
 やがて男が何度目かの精を吐いたのち、彼女の体は唐突にくたりと力を失った。絶頂などあるわけはなくて、精神が限界を超えたことに他ならなかった。その間際にかけそく紡がれたどうしてがひどく男の内部で反響した。遠くなることなく鼓膜の傍に居座って、責めるよりはただ深海のように悲しんでいる。塩を揉み込まれた患部のように心臓がきりきりと疼いてやまない。
 彼女が意識を手放した瞬間に動きを止めた紅蓮は、すぐさま自身を抜き出すと、腕の拘束を丁寧に解いた。白い細腕にはぐじゅぐじゅに腐った果実のような痣が色濃く残っている。荒い呼吸が木霊する。かすかに腫れた目許をかすめるように拭ってやると、褐色の指先にぷくりと震うひと雫を舌先へ運んだ。美しい裸体にいくつも刻まれた引っ掻き傷と擦り傷、許容量を超えて溢れる白濁に赤い色が混じっている。
 勾、呼びかけようとして口を噤んだ。抱きしめようとして伸ばした手を爪の食い込むほど握りしめて堪えた。彼女の心と同時に壊そうとした本心が勾陣の無意識に気取られることが怖かった。そして彼女が紅蓮を許すかもしれないことが許せなかった。

 紅蓮はすべて知っていた。
 勾陣の心が紅蓮に向いていたことを知っていた。それが信頼以上のものであることを知っていた。同じだけの思いを自分もまた彼女に向けていたことを知っていた。一番にしてやれないことを知っていた。選んでやれないことを知っていた。報われることのない情が互いに枷でしかないことを知っていた。
 彼にとっては、それでもよかった。彼女を思うだけで満ちていた。肩越しに振り向けばいつも笑っていてくれたから、紅蓮はそれだけで幸せだった。
 けれど、勾陣はそうでないことを知っていた。時折壊れそうに目を閉じていたことを知っていた。実を結ばない感情を疎んでいたことを知っていた。なくしてしまいたがっていることを知っていた。愛情が猛毒でしかないことを知っていた。優しさが刃にしかならないことを知っていた。叶うことのないまま持て余した感情が彼女を何よりも苛んでいることを知っていた。嫌いたがっていることを知っていた。いっそ憎みたがっていることを知っていた。
 すべて、すべて、知っていた。

 それなら。
 俺とのすべてを壊してしまいたいのなら。俺のことなど嫌いたいのなら。俺のことなんて憎んでしまいたいのなら。
 俺はそれに応えよう。俺がそれを叶えよう。
 ――叶えてやろう。

 弛緩したきり動かない彼女に、紅蓮はゆっくりと目を細めた。
 彼はすべて知っていたけれど、こうするより他、勾陣が自分を嫌ってくれる方法を知らなかった。勾陣が紅蓮に向ける無償の友情を、恋情を、愛情を、そして至上の信頼を、復元不可能なまでに壊して崩して枯らせて踏みにじっては腐らせて裂いて潰して損ねて駄目にするにはそうするより他に術など見当たらなかった。生半可に突き放す程度では彼女はむしろ紅蓮のことを案じて微笑みかけるだろうし、たとえ目前に喉元に焔の刃を突き付けたとて彼女はきっと紅蓮を許す。言い切れる。なぜなら勾陣が同じことをしてきても紅蓮は同じように彼女を受け入れ許すだろうから。どうやったらお前の優しさを避けることができるだろう。考えて考えて、そして唯一思いつくことのできた苛虐だった。それは同時に決してやりたくなかった愚行だった。
 絶望を知る紅蓮だから言える。そして結ばれぬ愛情の痛みを知る紅蓮だから言える。瞬きのたびに肉の色を露呈して疼く感情が永遠を数えるのとは対照に、深く深く刻まれた傷はそれでもやがて痕になる。
 ……そうでないと、困る。
 俺の存在そのものが傷が傷痕になることを妨げると言うのなら、こんな心臓はお前の目の前で抉ってやろう。

 しばし躊躇った後、男はさいごと唇をかすかに震わせて顔を寄せ、女のそれをかすめた。仄かに鉄の香が漂った。頬に触れていた手を離す。震えていた。どうしてだか目の奥が熱く、のどの奥がひりひりと焼けていた。
 これで最後だから。もう触れないから。もう近寄らないから。もう求めないから。もう呼ばないから。痛いなんて言わないから。許されたいなんて思わないから。残忍に演じた嘘が真実になることに呼吸のすべてを使うから。お前が気にかける価値もないほど、お前の記憶に残る価値もないほど最低の男に成り下がるから。憤怒も嫌悪も憎悪も何も何も何もかも受け止めるから。許せないのなら殺してくれたって構わないから。
 だから、どうか、お前がこれ以上俺のことで苛まれることがないように。
 どうかお前の痛みがこれで最後になるように。

 ――騰蛇。
 繰り返された声が頭の隅で残響する。
 彼女の姿を脳裏に上手く描けない。
 優しくしたかった。甘やかしたかった。愛したかった。
 ほんとうは、傷つけたくなんて、なかった。

 涙も枯れたはずの白い頬が雫を弾く。
 二度三度と落ちたそれはやがて重力に従い、どこかに消えて見えなくなった。

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無題
ハッピーエンドになってほしいです。紅蓮と勾陣が可哀想です
匿名さん 2013/12/26(Thu)07:10:55 編集
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少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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