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Be praying. Be praying. Be praying.
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最早お題に沿ってないけど気にしない(待
少陰・現代で益荒と阿曇と斎。
現代の斎ちゃんは本編より子供っぽいといいなと思ったからそうしてみる(←
あとイデオロギーは間違いなく斎>阿曇>>>益荒だと思うんだ。


夜のコンビナートは冗談抜きで綺麗。




10/100

 眼下に広がる光景を見た少女が楽しげに息を呑んだ音を聞き、益荒は満足げに頬を緩めた。

 ゴールデンウィークというものは、所謂行楽日和である。盆の暑さも正月の寒さもなく、その二つに共通する忙しさもない。つまり遊びに行くには絶好の気候と暇加減の連休だ。最近は少々温すぎる気がしないでもないものの、それでも過ごしやすいことに変わりはない。
 斎と同じくらいの年代の子供たちは、おそらく親に遊園地だの動物園打のハイキングだのに強請って連れて行って貰っているのだろう。しかし元々インドア寄りの斎が時折強請るのは、今現在彼らがいる場所のような、有名無名は問わず綺麗な景色が見えるところだ。たとえば水平線に白い輝きが見える海や、箱庭に似た街並みの見える山や。実は夜のコンビナートを見るのも楽しがっていることを益荒も阿曇もよく知っている。ちなみにそれよりもう少し低い頻度になるが、水族館やプラネタリウムなども斎は好む。
 現在地から見える景色は決して絶景とは言えないもののなかなかのものである。豆粒に等しいほどに小さな建物はしかしそれなりの秩序を保って建ち並んでいる。それより視線を前方にやれば、遠く霞んだ山と、それに挟まれて見える、同じように霞んだ海。色の識別さえ難しく、陽光を弾いて煌めく様だけが鮮明に見て取れる。そろそろ低くなり始めた空の青が美しい。
 右手をひさしにして、木でできた柵から身を乗り出すようにしてそれらの景色をじっくりと眺めている斎の横で片膝を着いていた益荒はふと振り返り立ち上がった。飲み物を買ってくると言った阿曇が帰って来ている。益荒に遅れて斎もそれに気付いたようだ。
「斎様、どれがよろしいですか?」
 柔らかく尋ねた阿曇は両膝を折って斎と目線を合わせてから持っている缶を彼女に見せる。麦茶と緑茶と烏龍茶、ごくごくポピュラーな選択肢の中から斎は麦茶を選んだが、一度手に取って、少し考え込んでから阿曇に一旦返した。
 阿曇が小首を傾げてみせる。
「どうなさいました?」
「すまぬ、開ける前にちょっとやりたいことがある」
 そう言ってから、――斎は何故か益荒に体を向けた。

「益荒、肩車をしてくれ。…高い目線から、この景色を見てみたい」

 益荒は虚を突かれて目を瞬かせたが、すぐに「御意」と片膝を折った。



 しっかりと手で少女の足を固定してから立ち上がる。その瞬間だけバランスが危うくなったがすぐに正せた。けれど益荒の前頭部に添えていた斎の手の力が僅かに籠る。
 斎が満足げにしているのが手に取るように分かる。この少女の気配ならばどんな微弱なものであろうと読み取れる。近い場所にいるのなら猶更だ。
 子供と言うのは高い目線を羨ましがる。確かに多少の差はあるのだろうがそれはあくまで多少であって、このように広範囲の景色に差異が生じることは殆どないのではなかろうか――と益荒は考えているのだが、それを口にしようものなら斎に物言いたげな目で見つめられ、ついでに阿曇から容赦のない突っ込み(と言う名の説教と言うかあれはむしろ罵倒に近い)が来るのが目に見えているため何も言わない。高い目線を羨むという経験を持たない益荒と阿曇両名にとってはそれは未知の領域である。
 けれどもまた両者にとって重要なのは斎が楽しがっているか否かという一点のみであって、それ以外は本当に瑣末なことに過ぎない。と言うよりも彼らの見解は既に、斎が幸せにしているのならばそれ以外はどうでもいいという極論に至っている。
「益荒」
 頭上から声が降ってくる。
 斎は右手を前方に伸ばして彼方を指差した。その分左手の力が強くなる。
「あの海まで、ここからどれくらいで行ける?」
「行きたいのですか?」
 阿曇が尋ねた。頷く気配がする。
 益荒は来る前に頭に叩き込んだこの辺りの地図を思い浮かべた。
「さして遠くはなかったと思います。帰る前に寄れますよ」
 途端、斎の気配が明るくなった。
 この位置ではどう頑張ってもその表情を拝むことが出来ないことが少々悔しい。



 しばらくして満足した斎は地面に降りた。阿曇から麦茶の缶を受け取り、近くの木製ベンチに腰をおろしてプルタブを開け、口をつける。
 それを見ていた阿曇は、同じようにしていた益荒に、無造作に缶をひとつ投げて寄越す。合図も何もなかったが益荒は危なげなくキャッチした。……俺に選択権はないのか、と胸中で呟いて。
 缶は開けずに斎を見る。この子がこのように、楽しげで無邪気で穏やかな表情を浮かべれるならいっそ毎日だって連れ出してやりたいのが本音である。物理的金銭的斎の生活・体力的に無理なことが悔しいが。
 ゴールデンウィーク中に、もう一度くらい連れ出してやることは出来るだろうか。近場でいい。安倍の家の誰かが手頃な穴場を知っているだろう。使える情報源は最大限活用すべし、というのが益荒と阿曇に共通するスタンスであり、安倍家はかなり便利な情報源であったりする。
 飲んでいた缶を傍らに置き、腰を上げてまた景色を楽しむ斎の姿に益荒は口元を和らげた。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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