Be praying. Be praying. Be praying.
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玉依編が完結する前にぼんやり考えてたブツ。
昌彰パラレル。昌浩裏切りエンドみたいな(待てコラ
間違ったふっ切り方をしちゃった昌浩。
敵になっても昌浩は彰子を護ります。そのために彰子の敵になったから。
昌彰パラレル。昌浩裏切りエンドみたいな(待てコラ
間違ったふっ切り方をしちゃった昌浩。
敵になっても昌浩は彰子を護ります。そのために彰子の敵になったから。
誰も来ないと思っていた。
木々が身を寄せ合うように密集するこの森で、十二神将とはぐれてしまってどうする事も出来ず、自分を追い詰める恐ろしい異形が自分を食らう瞬間を待つしかもう自分に為す術はないのだと、嫌だと叫びながら諦めていた。
それなのに。
どうして、と彰子は唇をわななかせた。
ばくばくと疾走を続ける心臓をなだめることも忘れ、血の味を感じながら荒い息を吐き、目の前に現れた背中を凝視する。記憶の中のそれよりも、広く大きく見えた。
「――オン」
彰子が風下にいたからかもしれない。囁き程度の声が不思議と彼女にも届いた。
刹那、爆発した霊力が暴風を伴い爆ぜる。閃光と爆風に耐え切れずにぎゅうと両目をかたく閉じた。それでも足らず、顔を腕で防御したのは反射だったが、唐突に、誰かが自分をかばったとしか思えない程に唐突に、それらが和らいだ。やがて全てがゆるやかに凪ぐ。恐る恐る瞼を開きかざしていた腕を下ろすと、少年が酷く優しい笑顔で自分を見ていた。
「………まさひろ?」
呆然と、問う。肯定も否定もせずに彼は困ったように笑みを深くした。
「ごめん」
何がごめんなのか、どうして今彼がここにいるのか、どうしていなくなってしまったのか、ぐるぐると脳裏に渦巻く疑問が無意識に口を吐いて飛び出ようとした。しかしそれより先に、昌浩が右人差し指を彰子の口に押し当てる。しぃ、とわざと音を立てて息を零しながら。
「でも、守るから」
最後に彼を見たのはいつだっただろう。唐突に遠くへ行ってしまった彼を。
作りは全く同じで、年を重ねたわけでもなく、しかしぐんと大人びて不自然に穏やかな表情は、彰子の知る昌浩にどうしても結びつかない。彼はいつだって良くも悪くもまっすぐで、こんなに複雑に笑う少年ではなかった。
誰だろう、と思った。
この昌浩は、誰だろう。
「えぇと、さ。……色々、約束をしてたんだ。紅蓮や、じい様とかとも。でも、全部守るの無理そうって気づいちゃって…考えたんだ。どれが一番守り抜きたい約束だったのか」
昌浩の手が彰子に伸びる。びくりと身を縮める彰子を寂寥交じりの目で見つめ、大丈夫だよと彼は言った。彼は彰子の右手を柔らかく両手で包み上げると、力の抜けた小指に自分のそれを絡ませた。
「護るよ」
その声音だけは、以前と何も変わらず、彰子は不意に泣きたくなった。
「全部かなぐり捨てたから。だから大丈夫。……この約束だけ、絶対守れるから。何があっても、お前を護るから」
あぁと、彼女は心で納得してしまった。
彼は選んでしまったのだ。
一番どうでもいい約束を。
「たとえ敵対してても、俺はずーっと“お前”の味方だからね」
絡んだ指が、するりと解けた。
昌浩は警戒と懐古と寂寥が入り混じった眼差しである一点を見つめた。何があるのだろうとそちらに注意を向けると、よく知る神気がふたつ、すさまじい速さで近づいてきている。
すっと立ち上がった彼は、一度だけ彼女のぬばたまの髪を撫でた。息も整ったはずなのに渇いた喉は震えず、心臓だけが相変わらず体内で煩く鳴っている。
言わなければいけないことがある。けれどもそれは、今の彼に言ってはいけないことで。それでも言いたいことで、彼を傷つけるのならば言いたくないことで、一人途方に暮れる彼女はただ、「昌浩」と彼の名を呼んだ。
「…い、今から逃げても、みんながすぐ追いつくわ。昌浩も知ってるでしょう? 十二神将は、みんなすごく強くて、昌浩より強くて、でもみんな昌浩のこと心配してて、……だから昌浩、お願い、」
――行かないで。
――傍にいて。
――それだけでいいから。
「――――ごめんね」
同じ言葉を呟いた彼は、酷く優しく微笑んで、身を翻した。咄嗟に伸ばした手が届くはずもなく空しく宙を掻き、抜けた腰では立ち上がることさえ出来ず、木々に紛れてすぐに消えた背を見送ることしか出来なかった。行き先を失った手から力が抜け、ぱたりと地に落ちる。
「姫っ!!」
木々の隙間を縫って届いた甲高い声に、はじかれたように彰子は首を巡らせた。待つまでもなくよく見知った姿が現れる。
「無事なの!?」
興奮に声を荒げる太陰に、大丈夫よの意味を込めて深くうなずいてみせる。しかしそれを裏切るように、ぱたりと大きな目から雫が零れ頬を伝った。
緊張が解れた、安心した、怖かった――理由はいくらでも上げられる。けれど。
「…………今の、霊気は…」
硬い声で太陰と共に姿を見せた天一が呟く。愕然とした声音は何よりも信じられないと雄弁に語っている。
「わたしが行くわ」
言うが早いが、天一に負けず劣らず硬い声色で答えた太陰が風を纏い、先ほど彼が身を翻した方向へと文字通り飛び出した。
それら一連を、透明な薄い膜越しに眺め聞くともなしに聞いていた彰子は、どうして、と弱々しく呟いた。呟いたと思ったのは彰子だけで、微かな吐息が彼女の声を微量に乗せただけだった。
憂う空色が見えた。ぼろぼろと溢れる涙を細い指が拭ってくれる。彰子はただ泣き続けた。護るよ、と言った、二つの、全く同じであり途方もなく違う声を思い出す。
昌浩が護ってくれるんでしょう? そう言ったことは確かにあった。けれど、
――護りなさいなんて、言ったことはなかったのに。
傍にいてくれるだけで十分だった。名前を呼んでもらえるだけで。破れた衣を出来るだけ綺麗にと気をつけながら繕い、美味しいと言ってもらえることを願って夕餉の支度を手伝った。時に囲碁の相手をしてもらい、時に眠い目をこすりながら彼の帰宅を待っていた、それだけで彼女は満たされていた。自分を守るために傷ついていく彼に覚えていたのは感謝を通り越してしまった申し訳なさであり、彼が傷つくくらいならば護ってくれなくてもいいと思っていた。それを彼に言ったことはなかった、言えば彼が――自分を護るために尽力する、彼が――傷つくのは、目に見えていたから。
傷つけたくないとその場の平穏を願い、結局、彰子は彼の道を決定的に踏み外させた。もう彼はどこにも戻れない。
どこにも戻れぬまま、彰子を護るために人生を使う。
「駄目、どこにもいないわ。見つからない!」
いつの間にか戻ってきていた太陰の声を遠くに聞きながら、泣きはらした目で曇天を見上げる。
こうなるくらいなら、約束なんて要らなかった。
今、彼は自分たちの敵となり、彰子の名前を紡がない。
どこで間違えてしまったのだろう。
木々が身を寄せ合うように密集するこの森で、十二神将とはぐれてしまってどうする事も出来ず、自分を追い詰める恐ろしい異形が自分を食らう瞬間を待つしかもう自分に為す術はないのだと、嫌だと叫びながら諦めていた。
それなのに。
どうして、と彰子は唇をわななかせた。
ばくばくと疾走を続ける心臓をなだめることも忘れ、血の味を感じながら荒い息を吐き、目の前に現れた背中を凝視する。記憶の中のそれよりも、広く大きく見えた。
「――オン」
彰子が風下にいたからかもしれない。囁き程度の声が不思議と彼女にも届いた。
刹那、爆発した霊力が暴風を伴い爆ぜる。閃光と爆風に耐え切れずにぎゅうと両目をかたく閉じた。それでも足らず、顔を腕で防御したのは反射だったが、唐突に、誰かが自分をかばったとしか思えない程に唐突に、それらが和らいだ。やがて全てがゆるやかに凪ぐ。恐る恐る瞼を開きかざしていた腕を下ろすと、少年が酷く優しい笑顔で自分を見ていた。
「………まさひろ?」
呆然と、問う。肯定も否定もせずに彼は困ったように笑みを深くした。
「ごめん」
何がごめんなのか、どうして今彼がここにいるのか、どうしていなくなってしまったのか、ぐるぐると脳裏に渦巻く疑問が無意識に口を吐いて飛び出ようとした。しかしそれより先に、昌浩が右人差し指を彰子の口に押し当てる。しぃ、とわざと音を立てて息を零しながら。
「でも、守るから」
最後に彼を見たのはいつだっただろう。唐突に遠くへ行ってしまった彼を。
作りは全く同じで、年を重ねたわけでもなく、しかしぐんと大人びて不自然に穏やかな表情は、彰子の知る昌浩にどうしても結びつかない。彼はいつだって良くも悪くもまっすぐで、こんなに複雑に笑う少年ではなかった。
誰だろう、と思った。
この昌浩は、誰だろう。
「えぇと、さ。……色々、約束をしてたんだ。紅蓮や、じい様とかとも。でも、全部守るの無理そうって気づいちゃって…考えたんだ。どれが一番守り抜きたい約束だったのか」
昌浩の手が彰子に伸びる。びくりと身を縮める彰子を寂寥交じりの目で見つめ、大丈夫だよと彼は言った。彼は彰子の右手を柔らかく両手で包み上げると、力の抜けた小指に自分のそれを絡ませた。
「護るよ」
その声音だけは、以前と何も変わらず、彰子は不意に泣きたくなった。
「全部かなぐり捨てたから。だから大丈夫。……この約束だけ、絶対守れるから。何があっても、お前を護るから」
あぁと、彼女は心で納得してしまった。
彼は選んでしまったのだ。
一番どうでもいい約束を。
「たとえ敵対してても、俺はずーっと“お前”の味方だからね」
絡んだ指が、するりと解けた。
昌浩は警戒と懐古と寂寥が入り混じった眼差しである一点を見つめた。何があるのだろうとそちらに注意を向けると、よく知る神気がふたつ、すさまじい速さで近づいてきている。
すっと立ち上がった彼は、一度だけ彼女のぬばたまの髪を撫でた。息も整ったはずなのに渇いた喉は震えず、心臓だけが相変わらず体内で煩く鳴っている。
言わなければいけないことがある。けれどもそれは、今の彼に言ってはいけないことで。それでも言いたいことで、彼を傷つけるのならば言いたくないことで、一人途方に暮れる彼女はただ、「昌浩」と彼の名を呼んだ。
「…い、今から逃げても、みんながすぐ追いつくわ。昌浩も知ってるでしょう? 十二神将は、みんなすごく強くて、昌浩より強くて、でもみんな昌浩のこと心配してて、……だから昌浩、お願い、」
――行かないで。
――傍にいて。
――それだけでいいから。
「――――ごめんね」
同じ言葉を呟いた彼は、酷く優しく微笑んで、身を翻した。咄嗟に伸ばした手が届くはずもなく空しく宙を掻き、抜けた腰では立ち上がることさえ出来ず、木々に紛れてすぐに消えた背を見送ることしか出来なかった。行き先を失った手から力が抜け、ぱたりと地に落ちる。
「姫っ!!」
木々の隙間を縫って届いた甲高い声に、はじかれたように彰子は首を巡らせた。待つまでもなくよく見知った姿が現れる。
「無事なの!?」
興奮に声を荒げる太陰に、大丈夫よの意味を込めて深くうなずいてみせる。しかしそれを裏切るように、ぱたりと大きな目から雫が零れ頬を伝った。
緊張が解れた、安心した、怖かった――理由はいくらでも上げられる。けれど。
「…………今の、霊気は…」
硬い声で太陰と共に姿を見せた天一が呟く。愕然とした声音は何よりも信じられないと雄弁に語っている。
「わたしが行くわ」
言うが早いが、天一に負けず劣らず硬い声色で答えた太陰が風を纏い、先ほど彼が身を翻した方向へと文字通り飛び出した。
それら一連を、透明な薄い膜越しに眺め聞くともなしに聞いていた彰子は、どうして、と弱々しく呟いた。呟いたと思ったのは彰子だけで、微かな吐息が彼女の声を微量に乗せただけだった。
憂う空色が見えた。ぼろぼろと溢れる涙を細い指が拭ってくれる。彰子はただ泣き続けた。護るよ、と言った、二つの、全く同じであり途方もなく違う声を思い出す。
昌浩が護ってくれるんでしょう? そう言ったことは確かにあった。けれど、
――護りなさいなんて、言ったことはなかったのに。
傍にいてくれるだけで十分だった。名前を呼んでもらえるだけで。破れた衣を出来るだけ綺麗にと気をつけながら繕い、美味しいと言ってもらえることを願って夕餉の支度を手伝った。時に囲碁の相手をしてもらい、時に眠い目をこすりながら彼の帰宅を待っていた、それだけで彼女は満たされていた。自分を守るために傷ついていく彼に覚えていたのは感謝を通り越してしまった申し訳なさであり、彼が傷つくくらいならば護ってくれなくてもいいと思っていた。それを彼に言ったことはなかった、言えば彼が――自分を護るために尽力する、彼が――傷つくのは、目に見えていたから。
傷つけたくないとその場の平穏を願い、結局、彰子は彼の道を決定的に踏み外させた。もう彼はどこにも戻れない。
どこにも戻れぬまま、彰子を護るために人生を使う。
「駄目、どこにもいないわ。見つからない!」
いつの間にか戻ってきていた太陰の声を遠くに聞きながら、泣きはらした目で曇天を見上げる。
こうなるくらいなら、約束なんて要らなかった。
今、彼は自分たちの敵となり、彰子の名前を紡がない。
どこで間違えてしまったのだろう。
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