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どうかきれいなままでいて。





紅蓮がくすぐったそうに「…泣かないでくれ。どうすればいいかわからなくなる」と言うラブラブの話をRTされたらかいてください。
↑ツイッターで診断メーカーで遊んでたらこんなのが出たので従って。
前似たような話書いた気が書き始める前からしてたけど気にしない。
そんなにラブラブもしてない。

 もっとも合理的で的確な判断だった、というのが紅蓮の言い分だ。
 時の権力者たる男を狙った術者の討伐もしくは依頼者の糾明及び事件解決の命が秘密裏に主へ下ったことが発端である。依頼主を先に見つけ出すことができれば話は簡単に済んだのだが、術の残滓を辿りあるいは妖どもに聞き込み、そのような捜査では自然術者の方が先に見つかるものだ。対峙は必然だった。力の強い術者だった。禁術で妖を口寄せては式のように絶え間なく使役し攻撃してきた。こちら側の頭数は主と紅蓮、そして勾陣の三名のみで、個々の力量で言えば敵方をはるかに凌駕していたものの、数の暴力は絶大だった。加えて攻撃してくるのはただの妖と言うよりは生ける屍と言うべき存在だった。切り裂き、焼き、浄化してなお、一向に数は減らなかった。このままでは埒が明かない、持久戦に持ち込まれ主の霊力の消耗も激しくこれ以上長引かせるのは危険だと考えた紅蓮は独断で、何も言わずに禁術師を――焼いた。
 もちろん主からは手ひどく叱られ悲しまれた。しかし結局は紅蓮の言い分が受け入れられた。純粋に状況と判断を考えれば間違ってはいなかったのだから当然と言えば当然だ(そして紅蓮はそれを見越していた)。紅蓮としては理を侵したことよりはすまないと謝られたことの方が痛かった。
 そして紅蓮にはもう一人から叱られる義務が残っている。炎蛇を放った瞬間からその場にいたもう一人、勾陣は口をきいてくれないままだ。下手に声をかけても逆効果だと思い(彼女が何に怒り何に傷ついたのか紅蓮は正しく理解していた)、今回の件が解決するまで特に触れないようにしたのだが、そろそろ紅蓮の側に限界が来た。悪いのが絶対的にこちらである分意地を張っていられる権利も要素もなく、紅蓮は諦めて異界にいた勾陣の許へ足を運んだ。諦めて、というのは、紅蓮自身彼女と対峙することによって生じる展開の予想が確信をもって描けていたからである。
 存分に責められることは承知の上で、勾、と呼びかけた。こちらから何か言わなければ彼女は口を開かないと分かっていた。こんなときでさえ勾陣に甘えるわけにはいかなかった。そして無言のままゆっくりと振り返り、己を見据えた勾陣に、彼はまず抱いていた予想図を捨てざるを得なかった。普段より激しく鋭い眼光で射られるとばかり紅蓮は考えていた。まさか透明な夜を嵌め込んだ双眸が――怒りがないわけではない、ただそれをすっぽりと包みこみ膜の向こうへ隠してしまった――悲しみと痛みと自責を織り交ぜて深い青に揺らめいていた。呼吸何回分かに一回、彼女はいやに緩慢に目を閉じては開いた。瞬きと言うよりも零れるものを抑え込む動作だった。
 ぁ、と、男の唇からかすかな声が落ちた。初めて後悔によく似たものが芽吹いた。己の行動そのものを悔いたわけではなかったが、こんな顔をさせるつもりもなかったのだ。
「――頼む」
 思わず頬に触れようと伸ばした手が躊躇って空に留まる。指先だけが痙攣するようにかすかに動いた後、その手は疲れたように重力に従った。胸の奥には焦燥感や浮遊感が折り重なってひどくくすぐったかった。微笑む。他に相応しい表情が分からなかった。
「……泣かないでくれ。どうしたらいいか、分からなくなる」
 勾陣は少し、驚いたように目を見開いて、挑発するように口許を吊り上げた。眼光も鋭さを増したが、それでも揺らいでいる色があることに変わりはなかった。
「自惚れるなよ」
 耳に気持ちのいい低い声が紅蓮を嘲りながら震えていた。
 表情と、瞳と、声と、言葉と、どれもがかみ合わずちぐはぐだ。
「誰がお前などのために泣いてなんかやるものか、誰が、誰が泣いてなど……!」
 言葉が擦れて途切れると、勾陣はまた口を噤んでしまった。それでも紅蓮から決して目を逸らそうとしない立ち姿が眩しい。――だから紅蓮は自らの行いを後悔せずにいられるのだ。どころか、誇らしくさえ、思う。それは主の危機を救ったことに対するものとはまた別種の感情だ。
「……謝るつもりは、ない」
 穏やかな口調で、しかし男は言い切る。
「悔いてもいないし、反省するつもりもない。同じ状況にまた陥ったら、俺はまた、迷わず同じことをするだろう」
 人間と対峙せねばならぬ不可避の事態は、おそらくこの先もあるだろう。その時汚れるべきはこの手であるべきだと紅蓮は信じている。綺麗なものを汚すより、汚れたものに重ねる方がいいに決まっている。それは正義感や自己犠牲と言うよりはむしろ独善と表現されるべき、『紅蓮自身がもっとも傷つかずにいられる』選択肢だ。
「だが、そのせいでお前を傷つけたのなら、それはすまなかった」
 傷ついてくれると思っていた。傷ついてくれたことが嬉しかった。けれどこんなにも悲しませることになるとは思っていなかった。八つ当たりに近い怒りをぶつけられる程度だろうと勝手に高をくくっていた。それが予想を超えた現実にいまになって慌てている。相変わらず言葉を返してくれない彼女に、これ以上どう言の穂を接げばいいのか見当もつかない。すべてをひっくるめて謝れば、もしかしたら事は簡単に終わったのかもしれない。だが、いまこの場では優しくても、結局やがては勾陣を傷つけることになる嘘だけは吐けなかった。彼女の前では誠実な男でありたかった。
 勾陣は細い息を長く吐き出すと、諦めたように俯いた。さらさらと黒髪がたちまちに彼女の表情を隠してしまう。紅蓮はどこかいびつな微笑を崩すことないまま再び手を伸ばし、今度はそっと、頬に触れた。少し冷たい。
「……なぜ、私に言わなかった」
「言ったらお前は止めるか、自分がやろうとするだろう」
 紅蓮の告げた二つ目の選択肢に、彼女はわずかな反応を見せた。自分をないがしろにしてまで紅蓮のことを思い遣る彼女の悪い癖(へき)を彼が知らないわけがなかった。もっともそれは紅蓮にも言えることである自覚はあるので、それを種に勾陣を責めたことは、それこそ彼女が自らの命を軽んじた時にしかないが。
「お前かあいつか、どちらかが手を下すのが嫌だった。俺がやることが、俺自身、一番楽になる選択だった」
 だから勾陣が傷ついてくれる必要などかけらもないのだ。彼女が痛々しく思う紅蓮の自己犠牲など初めから存在すらしていないのだから。誰にも強要されなかった、そんな空気さえなかった、道は他に存在した、それでいてなお紅蓮は勝手に決めて勝手に選んだ。誰の手も汚させたくなかった。とりわけ彼女にだけは理を侵させたくなかった。勾陣は永劫、紅蓮にとっては眩しいほどに清らかであるべきだと、彼は信じている。彼女がつまらない人間のために損なわれてしまうことが耐えられなかった。周囲への影響も考えず貫いたそれは結局のところ我儘でしかなくて、だから紅蓮には今回の罪を口にする権利もなければその気もない。自己犠牲に包んで自分を誤魔化し悲劇に浸るなど、紅蓮はそこまで愚かしくなれなかった。
「俺は俺が一番楽でいられる道を選んだだけだ、だから、……なぁ、泣くな」
「言っただろう。……泣いてなど、いない」
「…ああ」
 涙はなかった。けれど瞳が波紋のように揺れていた。彼はそれを勾陣の泣き方のひとつだと捉えている。強くあることを望み自らに課す女だから、同胞の中で誰より激情家でありながら感情を晒すことを拒む女だから。
「怒ればいい、許せないなら許さなくていい、できる限り言うことも聞く、だから頼む、」
 その先に続けるべき言葉をふいに紅蓮は見失った。泣くなと繰り返しても叱られそうな気がしたし、悲しまないでくれと言うのは傲慢な気がした。なくしてしまった台詞の代わりに、彼はそっとおもてを上げるよう勾陣を促した。のろのろと従った彼女の双眸は相変わらずさざめいていた。しばらく二人の隙間に静寂が降った。やがてゆる、と瞼を下ろした勾陣に、紅蓮は顔を寄せたが、一瞬躊躇い、途中でわずかに軌道修正した。ここで唇をかすめるのは卑怯な気がした。ほんの一瞬睫毛を触れ合わせる。その一瞬は甘い夜のように優しかった。
 そのまま離れる。不思議そうに開かれた黒曜石に吸い込まれてしまいそうだった。
「騰蛇……」
「……」
「……それでも、私は…嫌だったんだ」
 頬に留まる男の手に自らの手を重ね、女は微笑む。紅蓮はそれに微笑み返すと、頬に添えていたのは逆の手で、乾いている彼女のまなじりをなぞった。そのまま緩やかに両手を華奢な背に添えても、勾陣は逃げるそぶりを見せなかった。けれど、そのまま抱きしめるのも何か間違っているような気がして、中途半端に腕を泳がせる。やがて女は自ら額を男の胸板に預けた。縋ると言うより、ただそっと触れ、寄せるだけの。細い背をゆるやかに撫ぜると、勾陣はまるで嗚咽のように長く長く息を吐いた。相変わらず涙の気配はなかった。「お前にだけは理を侵させたくなかった」告げ忘れていた本音を呟く。勾陣は、嫌だったんだよ、と囁いた。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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・紅勾、青后、勾+后(@少年陰陽師)

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