Be praying. Be praying. Be praying.
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少年陰陽師・天后。
天后さんのイメージは「可愛い」なんですが、格好いい天后さんも書いてみたくなりました。
1/100消化。
天后さんのイメージは「可愛い」なんですが、格好いい天后さんも書いてみたくなりました。
1/100消化。
銀糸が月光にさらりと煌めき風の愛撫を受けて広がる。星の光さえもかすむほどに煌々と澄みわたる冷たい光に照らされて、彼女の長い銀髪もまたどこか冷やかに輝いた。見る者がいたならば目を奪われていただろう女神の美しさを、けれど見る者はひとりもいない。
天后は息を詰め臨戦態勢を取って、眼前にいる妖を睨めつけていた。蛙と蜥蜴を足して二で割ったような見てくれの妖はがたいだけは大きく、その分こぼれる妖力もそれなりである。
最近、都はずれの川べりに妖が出没する、退治てくれ、との命が晴明のもとへ舞い込んできたのはつい先日のことである。そこで今回、天后に白羽の矢が立った。面白いのは天后が川岸に訪れて少しも経たないうちに姿を現したことで、どうやら天后の神気を嗅ぎつけて我が力とせんとしたらしい。身の程知らずもいいところだと天后は冷たい感想を持った。
〈十二神将…?〉
不意に天后は妖の呟きを聞く。
〈ふん……人の元へと堕ちた神か〉
ぴくりと天后の眦が動いた。すいと細めた先の翡翠は普段のたおやかさはいずこかへと隠し、闘将の迫力にはわずかに劣るもそこに宿る苛烈な光の性質は四闘将たちと何も変わらない。
〈その力、我に寄越せよ―――!!〉
声にならない妖の咆哮を耳が捉えるよりも先に天后は後ろへ跳躍していた。軽い体はしなやかな動きで着地する。避けられるとは思っていなかったのか少なからず動揺している体の妖へ向かって天后は艶やかとさえ言える笑みを見せながら静かに言った。
「…くだらない。人の元へと堕ちた? そんなことあるわけはないでしょう?」
晴明を主と仰いでからも天后は何も失っていない。得たものの方が多いくらいで、たとえ他の何物が堕ちたと評そうとも客観的真実がどうであれ天后にとっては何の効力ももたない戯言でしかない。
目の前にたたずむ妖は蛙と蜥蜴を足して二で割ったような姿をしていて、がたいだけは大きいがその分妖力はそれなりにあるようで、―――けれど、それなりでしかない。天后に遠く及ばない、見てくれがでかいだけの、未ださしたる力も持っていない、雑魚である。それはあくまで天后という神将の視点からの評価であり、世の人間がこの妖を雑魚と評すか評さないか、やはりそれも天后にとっては大した問題ではない。
問題なのは。
「それに」
天后は神気を集めて、流れる川の水から細長い物体を作り出した。片方だけが鋭く尖る水の矛。天空の作る武器より殺傷能力は劣るものの、立派な天后の武器だ。
構え、腰を低く下ろす。そして彼女は地を蹴った。
振るう刃先に感じる確かな手ごたえ。僅かに瘴気が漂ってくるのを感じる。斬った箇所から溢れているのだろう。
〈ぐ、うっ…〉
「…私の力は、貴方なんかにあげれるほど安くはないの」
―――天后とて、確かに十二神将の一柱である。戦闘能力を持つ八人の中でもっとも力が弱かろうと、それは確かな事実であって、そしてこの事実が覆ることなどありはしない。力の大小など関係はなかった。いくら普段後方支援に回ることが多いと言えども、四闘将に比べればどうしようもなく劣っているけれども、それでも、天后には先陣を切る力がある。
彼女も、確かに、戦場に身を置き、刃を奮い、戦うことで他を守る、力を持つ存在なのだ。
それを侮ることも、侮辱することも、それこそ何人たりとも許されてはいない。誰ひとりとて彼女の矜持を手折ることなど出来はしない。
もしそれを為そうとする愚か者がいるとするならば、
「―――十二神将がひとり、天后」
ただ、力での制裁あるのみ。
天后は波濤の矛を構えなおした。すでに戦意を喪失しかけている妖を見ても天后は何も思わない。眼前にいるのは、屠られるべき哀れな存在。
すいと天后の目が細くなる。苛烈な翡翠が妖を絡め捕り、象られた三日月は自信に満ちている。
そして、静かな声で死刑宣告が行われる。
「私を侮ったこと、後悔なさい」
天后は息を詰め臨戦態勢を取って、眼前にいる妖を睨めつけていた。蛙と蜥蜴を足して二で割ったような見てくれの妖はがたいだけは大きく、その分こぼれる妖力もそれなりである。
最近、都はずれの川べりに妖が出没する、退治てくれ、との命が晴明のもとへ舞い込んできたのはつい先日のことである。そこで今回、天后に白羽の矢が立った。面白いのは天后が川岸に訪れて少しも経たないうちに姿を現したことで、どうやら天后の神気を嗅ぎつけて我が力とせんとしたらしい。身の程知らずもいいところだと天后は冷たい感想を持った。
〈十二神将…?〉
不意に天后は妖の呟きを聞く。
〈ふん……人の元へと堕ちた神か〉
ぴくりと天后の眦が動いた。すいと細めた先の翡翠は普段のたおやかさはいずこかへと隠し、闘将の迫力にはわずかに劣るもそこに宿る苛烈な光の性質は四闘将たちと何も変わらない。
〈その力、我に寄越せよ―――!!〉
声にならない妖の咆哮を耳が捉えるよりも先に天后は後ろへ跳躍していた。軽い体はしなやかな動きで着地する。避けられるとは思っていなかったのか少なからず動揺している体の妖へ向かって天后は艶やかとさえ言える笑みを見せながら静かに言った。
「…くだらない。人の元へと堕ちた? そんなことあるわけはないでしょう?」
晴明を主と仰いでからも天后は何も失っていない。得たものの方が多いくらいで、たとえ他の何物が堕ちたと評そうとも客観的真実がどうであれ天后にとっては何の効力ももたない戯言でしかない。
目の前にたたずむ妖は蛙と蜥蜴を足して二で割ったような姿をしていて、がたいだけは大きいがその分妖力はそれなりにあるようで、―――けれど、それなりでしかない。天后に遠く及ばない、見てくれがでかいだけの、未ださしたる力も持っていない、雑魚である。それはあくまで天后という神将の視点からの評価であり、世の人間がこの妖を雑魚と評すか評さないか、やはりそれも天后にとっては大した問題ではない。
問題なのは。
「それに」
天后は神気を集めて、流れる川の水から細長い物体を作り出した。片方だけが鋭く尖る水の矛。天空の作る武器より殺傷能力は劣るものの、立派な天后の武器だ。
構え、腰を低く下ろす。そして彼女は地を蹴った。
振るう刃先に感じる確かな手ごたえ。僅かに瘴気が漂ってくるのを感じる。斬った箇所から溢れているのだろう。
〈ぐ、うっ…〉
「…私の力は、貴方なんかにあげれるほど安くはないの」
―――天后とて、確かに十二神将の一柱である。戦闘能力を持つ八人の中でもっとも力が弱かろうと、それは確かな事実であって、そしてこの事実が覆ることなどありはしない。力の大小など関係はなかった。いくら普段後方支援に回ることが多いと言えども、四闘将に比べればどうしようもなく劣っているけれども、それでも、天后には先陣を切る力がある。
彼女も、確かに、戦場に身を置き、刃を奮い、戦うことで他を守る、力を持つ存在なのだ。
それを侮ることも、侮辱することも、それこそ何人たりとも許されてはいない。誰ひとりとて彼女の矜持を手折ることなど出来はしない。
もしそれを為そうとする愚か者がいるとするならば、
「―――十二神将がひとり、天后」
ただ、力での制裁あるのみ。
天后は波濤の矛を構えなおした。すでに戦意を喪失しかけている妖を見ても天后は何も思わない。眼前にいるのは、屠られるべき哀れな存在。
すいと天后の目が細くなる。苛烈な翡翠が妖を絡め捕り、象られた三日月は自信に満ちている。
そして、静かな声で死刑宣告が行われる。
「私を侮ったこと、後悔なさい」
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