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Be praying. Be praying. Be praying.
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どっちの日に合わせて書いたのか分からない紅勾。現代。
単に紅蓮がへたれな話。

「騰蛇、あっち行くぞ」
 突然袖を引っ張られて、紅蓮の口からは声と言うより鳴き声に近い何かが零れた。変な声を出すな仮にも闘将が、と勾陣は呆れ気味だが、紅蓮からすれば元凶が何を言うかという一言につきる。
「闘将でもなんでも急に引っ張られたらバランスくらい崩すわ」
「いいからほら」
 うるさい、の一言すらなく完膚なきまでに抗議をスルーされた紅蓮はそれ以上声を上げる気も溜息を吐く気すら失せて大人しく引きずられた。だが腹も立たないのだから素晴らしい慣れの産物だよなぁと紅蓮は我が事ながら感心する。ちなみに紅蓮は現在荷物持ちを全面的に任されており(むしろどう考えてもそのためとバイクを出すために連れてこられた)軽いものばかりとはいえ左手に紙袋を三つほど下げていたりするがその辺への配慮はない。勾陣は紅蓮に対して常に無邪気に傍若無人である。
 よく行く近所のスーパーや商店街ではなく、少し足を延ばしてショッピングモールにまで来ていた。安倍家はなんせ主に十二神将たちのせいで大所帯なので、こまごまとした雑貨も頻繁に入用になる。今回の買い物も単に紅蓮や勾陣個人のものを買いに来たわけではない。そうは言っても勾陣は普段の買い物よりは明らかに楽しそうだ。買い出しメモに何ら関係ない店にもふらりと寄っている。
 引きずられた先の店もそのうちの一件だった。カジュアルな雰囲気のアクセサリーショップップ。だいたいどこにでもあるような店で、紅蓮には店ごとの差異が分からない。以前勾陣にそう言ったら私も分からないと返されたことがある。違いなど関係なく単にこういう装飾品を見ることが楽しいらしい。
 店向かいに設置されているベンチにでも座って待っていようかと思ったが、上機嫌な横顔を眺めていたくて傍についていることにした。本人にその気はないだろうし見た目にも分からないが珍しくはしゃいでいる彼女を見逃す手はない。それに彼女の好みをサーチする機会などなかなかないのだから活かすべきだろう、少しはプレゼントの際に頭を抱えることも減るだろう。――減ればいい。
「なんだ、どこかで座っていてもいいんだぞ?」
「ん、まあな」
「お前が好きそうなものはないと思うがな」
「あってどうするんだ、ここ明らかに女向けの店だろ」
「だいたいお前がアクセサリーなんかつけていたらホスト化しそうだ」
「どういう意味だそれ」
 どうでもいい(むしろろくでもない)会話を繰り広げながら、紅蓮は彼女の視線が頻繁にある箇所を通ることに気が付いた。何か気に入ったものでもあったのだろうかとその先を追うもののデザインも石の色もさまざまなネックレスが密集していてどれが目当てか分からない。
「……なんか欲しいのがあるなら、買ってやろうか」
 紅蓮の台詞が思いがけないものだったのだろう、彼女の反応にはややラグがあった。
「いいのか?」
「まあ、これくらいの値段なら」
 モール全体が若者向けにデザインされているためか、ジュエルショップでもない限り大体学生の小遣いで手の届く価格帯の店ばかりで、このショップも例外ではない。高くて数千円、言い方は悪いがおもちゃのようなものだ。いい大人がこういうものをプレゼントに用意したら下手をすれば見限られそうな程度の。付いている石だってただの硝子かも知れない代物だ。
 だが、勾陣は一瞬だが目を輝かせた。紅蓮が思わずそれに魅入られた隙に、彼女は「それなら」と陳列に手を伸ばす。視線が何度も向いていた場所だ。そこから一つ手に取って、しばらくそれと他の商品を見比べていたが、対して迷う様子も見せずに「これがいい」と赤い石のついたネックレスを紅蓮に見せた。
 石を縁取る土台は銀、シンプルながら寂しくなく、控えめな華やかさとでも言うべきデザインだ。もっとも大きな――と言っても小指の爪ほどあるかないかのサイズだが――の石はとりわけ深く濃縮された朱の交わらない赤で、その傍にくっついている小さな石も同じく赤、ただしこちらの方が明るい色をしている。
「結構即決だな。さっきちらちら見てた奴か? これ」
「ああ。好きなんだよ、この色が」
「赤? なんだ、初耳だな」
「そうか? かなり昔から赤が好きだよ、私は。こういう深い色はとりわけね」
 思いがけない新情報に紅蓮は瞬く。彼女が取り立てて赤い色を好んで身に纏っている様子は今まであまりなかった。それを指摘すると彼女は、「まあ、赤全般と言うわけじゃないかな」と紅蓮の言を肯定した。深みのある透明な赤が好きなのだと言う。
 会計のとき、ネックレスを袋に包もうとした店員を勾陣は横から「そのままで」と遮った。付けて帰るからタグだけ切ってくれと。そしてそのまま受け取ったネックレスを紅蓮に突き出す。はいはいと首にかけてやる。振り替えってどうだと尋ねた勾陣の挑むような眼の色に首元の赤はよく映えていて、紅蓮は感じた通りに似合っていると笑った。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 これが日中の出来事だ。その後何事もなく必要なものとついでに食料品も買って帰った。礼なのか気まぐれなのかその後夕食の準備を勾陣も手伝って、その間も含めて現在に至るまで彼女の胸元には赤い色が光っている。それのことを除けば取り立てるほどでもない日常のワンシーンでしかない一連の流れをなぜ午後十時半になって今更明瞭に思い出していたかというと、昌浩の一言が原因だ。
 絶賛テスト週間中である昌浩が勉強のお供にしているらしいココアのお代わりを注ぎにダイニングへやって来て、その時ダイニングにいたのは紅蓮と勾陣のふたりだけだった。湯が沸くのを待ちながら数学の証明が難しいだの独り言のように愚痴っていた昌浩が「そういえばさ」唐突に言ったのだ。
「勾陣のそれさ、ネックレス。なんか紅蓮の色だよね、紅いの」
 それを切っ掛けに紅蓮の脳髄は冒頭からの記憶を懇切丁寧になぞったわけである。
 慌てるだけのリソースも足りずにフリーズするばかりの紅蓮を尻目に勾陣はさして動揺するでもなく「そうだな。だがどうした昌浩、急に」と普段通りの体だ。
「いやなんか、紅蓮の本性の時の髪とか、もっくんの目とか飾りとか、そんな感じの色だなーってふと思っただけ。ただの現実逃避な気がする、テストからの」
「そろそろ期末だったか」
「うん、来週の火曜から。いま課題片づけてる最中」
「あまり夜更かしはするなよ、ちゃんと寝ないと背が伸びないぞ」
「うっ……あと六ページくらいで数学のワーク終わるから、そしたら風呂入るよ」
「そうしろ。…ほら、昌浩。湯が沸いた」
 紅蓮にのみクリーンヒットした爆弾を投げつけた昌浩は対紅蓮への効果時間が切れる前にちゃっちゃとココアを作って部屋へ戻っていった。
 あの発言が紅蓮の何に一番効いたって、勾陣がこの色が好きだと――赤全般ではなくてピンポイントでこの赤が好きなのだと言っていたことだ。勾陣がなぜその――昌浩曰く紅蓮の色である――深い赤を好んでいるかなんて尋ねなかったし尋ねようとも思わなかったが、紅蓮の頭には彼に都合のよすぎる仮説が浮かんでやまない。しかしだからその色が好きなのかとかお前はあの時それを意識していたのかとかそんな度のすぎて自惚れた質問などできるはずもなく、紅蓮は奇妙な熱を悶々と抱え込むばかりだ。紅蓮ほどでなくても勾陣も同様に昌浩の言に驚いていたのならまだ無意識だったのかと一方的に嬉しく思う要素にもなろうが、勾陣は常と変らず泰然と冷静で、それどころか「昌浩もそう思うのか」と小さく呟く有り様である。その思わせぶりな台詞はしかし完全に独り言で、紅蓮はだからそれどういう意味だと問い詰めたい衝動に駆られた。そんなことできるはずもないのは自分でもよく分かっている。
「どうした、騰蛇、固まって。そんなに驚くようなことか?」
 そして紅蓮の硬直を指摘しながら勾陣はそれを材料にからかってくることをしない。彼女が意図的に行っていたことで紅蓮が慌てたらまず喜び勇んで面白がりに来るのが勾陣だと言うのに。その割には先ほどの独り言が見逃せない含みを孕んでいて、紅蓮にはもう何らかの答えを下すことはできなかった。
 さらにあの時――そして今も――彼女の胸元を飾る深い赤色がよく――ほんとうによく、勾陣に似合っていると思っている紅蓮自身が余計に彼から冷静さを奪う。人型を取っているとはいえ褐色に近い肌の色に心から感謝だ。情けないほどに頬が熱い。
「……昌浩が行く前に風呂に入ってくる」
 嵐の内心を勾陣に指摘される前にと腰を上げた紅蓮の背を、「あんまり長居してやるなよ、あと六ページだとか言っていたが」と含みのない声が追いかけた。

 二十分後、どうにか落ち着いて風呂から上がったものの、首から外したネックレスを蛍光灯の光にかざしひどく愛おしげな目をして柔らかく笑んでいる勾陣の横顔がいたく美しいのを見て紅蓮はまた悶々とすることになる。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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