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Be praying. Be praying. Be praying.
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一年前これの続き(←
おせぇよ! と突っ込んでやってください。確かにおせぇよ。
でもなんとなく思い浮かんだので。せっかくだし。

FEは好きだけどやっぱそれ以上に少年陰陽師が好きなんだよなぁ、と思います。FEの「世界観」ベースの少年陰陽師パラレルだから。やっぱり今も中心は孫なんですよ。天動説で言う地球、地動説で言う太陽(笑

 手当、と言っても、別段致命傷だったわけではなく矢尻が掠った程度だろうと見ていたのだが、そう言うわけではなさそうだった。荷物の中からまだ口をつけていない飲み水のストックを引っ張り出して来て傷口の回りを洗うと、白い肌が微弱ながら変色しているのが見て取れた。傷を受けている本人はそのことに気付いていないようで、傷口をじっと見つめて眉を潜めている紅蓮を見て不思議そうにしている。
「ちょっと失礼」
 一応一言断りを入れてから、紅蓮はおもむろに傷口を吸い上げた。慧斗の体が固まる。次いで腕を引こうとするのを引き止めて紅蓮は「悪いな」と小さく謝罪した。
「もしかしたら毒の弓を受けたかも知れない。傷口が軽く変色している。吸い出すから大人しくしといてくれ」
 かなり動いた後だから、下手をするともう回ってしまっているかもしれないが。今彼女に異変はないから、遅行性か微量にしか入らなかったのか弱毒かそもそも紅蓮の思い違いか。後者であればあるほど良い。
 口内が血の味で満ちる。ベオクもラグズも変わらないじゃないか、と種族の違いを理由に行われる差別にふつふつと怒りがこみ上げた。それは決して彼女のためのものではなく、とてもとても利己的なものであったけれども。
「…紅蓮、だったか? お前、やはり変わっているよ」
「そうか?」
 しみじみと呟かれる言葉におざなりに返してから口の中に溜まったものを吐き出し、もう一度傷口を軽く洗って荷物の中から特効薬と包帯を引っ張り出す。
「私は、ニンゲンは好かん。私たちラグズを野蛮な獣と思い込んでいる。ラグズとてベオクと同じ人類だろうに、それに気付こうともしない。酷いところでは国単位で差別助長が行われていると聞く」
「……耳が痛いな、一応ベオクとしては」
「お前に向けてじゃないさ、一般論だ。私の中の、一般のベオク像だ。それなのにお前はそこから面白いくらいに外れている」
「それはどうも」
 紅蓮の唇が僅かに綻んだ。――僅かに、自重気味に。
「………俺もお前と同じ側に回ることが多かったから、というので納得してくれるか?」
 敢えて明るくした口調に、けれども慧斗は自分の言をはっきり失態と定めてしまったらしく、口をつぐんでしまった。そういうつもりではなく、単なる事実を口にしただけであったのだが。
 それきり双方ともに口を開かなかった。遠くに鳥のさえずりを聞く静寂の中、時折彼女が軽く息を詰める音が紅蓮の耳に届いたが、取り立てて気にするべきものではなかった。荒っぽくなる、とは事前に言っているので謝罪するべき事柄とは違う。

「…紅蓮、少し静かにしていろ」
 包帯を固定した、そのタイミングで慧斗の耳がぴくりと動いた。終わったぞ、と言いかけて、静かにしろと言い渡されたので黙っておく。やがて慧斗の小さな舌打ちの音が聞こえた。
「……ニンゲンが来る」
 立ち上がった彼女は紅蓮にも立ち上がるように促すと秀麗な面差しを憎らしげに歪める。
「足音と、鉄の匂いがする」
 半獣狩りか、と紅蓮はすぐに思い至った。ラグズの五感はベオクのそれより遥かに発達しているし、彼女が嘘を吐くメリットはない。彼女の言葉を疑うべき理由はどこにもなかった。
 慧斗は瞬き一つの間に黒猫の姿に化身して紅蓮を一瞥し、低く唸った。
「…手当は助かった。ありがとう。道が分からなかったらクリミアか、デインかの近くまで送るが」
「ちょっと待て、勝手に話を進めるな」
 紅蓮は手早く薬やらを荷物の中に突っ込んで、今さっき慧斗の警戒を解くために捨てた先の街で買ったばかりのキルソードを、その時まで佩いていた、そろそろ耐久限界が訪れそうな鉄の剣の代わりに腰に引っさげる。鉄の剣は少々勿体ないが荷物が増えるので捨てておこうと決めた。それから荷物を肩に担ぎ、紅蓮は慧斗に向き直る。
「ここでお前と別れるつもりは、俺にはないんだが」
「お前は馬鹿か」
 紅蓮としては当然のことを言ったつもりだったのだが、間髪入れずの辛辣な返答に頬が引き攣る。――初対面から数えて一時間も経っていない相手にそこまで言われる筋合いはないはず、なのだけれども。
 わざとらしい溜息を吐いて、黒猫は黄金の相貌を輝かせる。鋭利な刃物を彷彿させた。
「お前はベオクだろう。私の側について、ベオクと対立するメリットは、お前にはないだろう?」
 ちらちらとある方向を窺いながら話す慧斗には悪いが、ベオクと言えども一応傭兵を生業としている紅蓮が何も感じない以上半獣狩りの連中かただの旅人か知らないが彼らが自分たちを見つけるのはもう少し後になるのは確実であり、だとしたら余裕はまだあった。
「メリット、と言うか。…面倒見た怪我人の面倒は最後まで見るべきだと、思うんだが」
 信じられない未確認物体に遭遇した時のような目で紅蓮を見ていた慧斗は、じきにその尾をぴんと立てた。――猫が尻尾立てる時って、機嫌がいい時だったか。それなりに緊迫しているはずの空気の中でどこまでも日常的でどうでもいいことを紅蓮は考える。
 じきに、ささやかな諦観を伴って、彼女は分かりやすく微笑した。
「…前言撤回だ」
 くい、と仕草だけで付いて来いと促され、ふたりは同時に地を蹴った。
「面白いどころじゃない。変わっているじゃ足りない、お前はただの変人だ」
「へ…」
 あまりにも酷い言われように、疾走中に口を開くのはいたずらに息を上がらせ体力を消耗させると知っていながら反論せずにはいられなかった。
「変人ってそれはお前言い過ぎだろう!?」
「いいやお前以上に変なベオクを私は未だかつて見たことがない。…ベオクにも友人はいるが、そいつも確かに一般とは微妙にずれているが、それでもお前よりはまだ一般的だ」
「人がまるで一般的じゃないようなことを言うな」
「一般的じゃなくて何になるんだ。第一お前を一般と定義すると大衆が変人になる」
 慧斗はそこだけはどうしても譲る気はないようで、紅蓮の抗議をことごとく交わしながら、しかしその声音には笑みが滲んでいる。自分は彼女に好ましく受け入れられることに完全に成功したことだけはよく分かったが、もう少しまともな位置づけで受け入れられたかった。
 それに、と紅蓮は横目で黒猫を見やる。しなやかな体躯で地を蹴るラグズ。化身を解けば人の美醜にさして興味がない紅蓮の目にも、絶世のと形容するに相応しいほど美しい。
 ベオクの対ラグズ感情はかなり最悪だが、その実ラグズの対ベオク感情も同じぐらいに最悪なことを紅蓮は知っている。その中で最初こそ警戒すれすぐに親身になり軽口を叩いてくるこの女もそれなりに一般的とは言い難い。しかし当人はそのことには気付いていないようで、紅蓮がお前も変わっている、と言ったところでどこがだと一蹴されるのは目に見えていた。その点で今現在隣で「自分が変人だと自覚している変人の方が少ない」と断言している彼女は実はそんなことを言えた義理はなく、しかし会って一時間も経っていないくせに、交わす会話の内容がある程度の確証を持って簡単に想像できる自分にもその義理はなかった。






 どこかで梟(ふくろう)が鳴いている。ぱちりと爆ぜる焚き火を絶やさぬように木をくべながら紅蓮は上空を見上げてみた。静かで荘厳な森の中は生々の気に満ちており心地がよく、街やその付近では決して見られないだろう星々の光も心なしか大きい。
 まだ日があったうちに近くの川から水筒に汲んで来ていた水で喉を潤しててから、紅蓮は近くの木に背を預けぐったりと目を閉じている女に視線を寄越した。

 もともと自分たちを追っていたのかそうでないのかは定かではないものの、取り敢えず慧斗の言っていた「足音と鉄の匂い」の持ち主たちに見つかることはなかった。
 それはいいのだが、問題はそこからだった。ラグズの街にベオクである紅蓮を連れていけば紅蓮の待遇が底辺のものになるのは目に見えていて、けれども慧斗をベオクの街に連れていくわけにはいかなかった。結局折衷案として出されたのは野宿だったのだが、俺が付いて行かない方がこいつにとっては都合が良かったのではないかと紅蓮はいささか反省した。
 当の慧斗が「いや、お前は面白いから、ここでさよならは少し惜しい」と言ってくれたのだが、結果論で考えると紅蓮の行動は間違いだったのだ。

 手当の際の紅蓮の見立てはどうやら正しかったらしく、一応野宿の用意(と言っても、水を汲んで来て乾いた木を集める、くらいで済んだのだけれど。紅蓮の荷物に、大部分は泊まっていた宿に置いていたと言っても、マッチや簡易保存食などはあった)が済んだ後、頭痛と目眩がする、悪いが少し休む、と慧斗は木の幹を背凭れに座り込んだ。もしかしてと思い額や頬に触れてみるといささか熱く、その上指先が微妙に痺れると言われたら紅蓮は自分の予想が当たったことを認めるしかなかった。
 野宿となると警戒しなければならない事柄は多くある。たとえば、正真正銘の獣たちや、ベオクとラグズ二人連れのために他のベオクやラグズに遭遇するのも出来れば避けたく、そして何より自分たちは、一応、妙齢の男女で。それはつまり、そういうことである。
 横になったほうがきっといいのだろうが、硬い地面に寝かせるのも、それはそれで躊躇われるものがあった。

「慧斗。…起きてる、か?」
 紅蓮が声をかけうっすらと浮かんでいる汗を手拭で拭ってやると慧斗はうっすらと目を開けた。悪戯っぽく笑い、軽い口調で応じてくる。
「ああ。……お前がいるのに眠りこけるなど、そんな危険な真似はしない」
「…そんな減らず口叩けるなら大丈夫そうだな。水要るか?」
「一口、貰う」
 手を伸ばして自分の水筒を取ってごく自然に渡す。慧斗も別段何を気にした風でも受け取って唇を湿した。
「別に、気にしなくてもいいんだぞ? お前がいなかったら、どっちみちこうやって過ごしただろうしな。ベオクの技術にラグズは付いていけていない、それは事実だ」
 小さく笑う彼女はそれでも若干苦しそうだった。強がり、というか、他人に弱みを見せたがらない性格のようだ。
「取り敢えず、寝ろ。休め。そっちの方が回復が早いのは分かってるだろう」
「…だからお前がいるのに熟睡するわけにもいかないと」
「何もしないっての……」
 肩をすくめ、苦笑して、共に過ごした時間は全てなんとなくと成り行きで構成された半日分だというのに俺を信じろと紅蓮は無茶を言う。そんなことは自分でよく分かっていて、どこにそんな信頼をする余地があるのか分からないのは重々承知していて、それでも信じて欲しいと、それこそなんとなく、思っていた。
「約束する。何なら指きりでもするか」
 唐突に慧斗が肩を震わせた。何だと思ったら口元を軽く押さえ、息苦しげに、そのくせこれ以上なく可笑しそうに笑っている。
 笑われる所以が分からない紅蓮は眉をひそめるばかりで、そんな紅蓮の様子に気付いたらしき慧斗は「すまない」と軽く謝罪を入れてくるものの、その声音も可笑しげに震えていてあまり効果はない。
「いい大人が指きりとか言い出すか、普通」
 やはり変だ。紅蓮をまっすぐに見て断言した彼女は、不意に瞼をそっと閉じた。
「慧斗?」
「信じてみてやる。今の言葉、違えてみろ。すぐさま消し炭にしてやろう」
「…はいはい」
 脱力して適当な返事を返した紅蓮に何故だか満足したらしき慧斗はそれきり呼吸に意識を集中しだした。それを認めて紅蓮は彼女から少しだけ距離を取る。

 きっと不思議に思っているはずだ。つい半日前まで他人だった別種族の女を無償で助ける男なぞ。その理由を今は変人だからの一言で済ませてくれているのはありがたい。
 本当は。本当は彼女を追いかけたのも助けたのも反吐が出るくらいに利己的な理由で、だから紅蓮はそれは言わない。
 今こうやって傍にいるのだって紅蓮の我が儘だ。
 その理由を、紅蓮は、よく知っている。

 ――幼い記憶の中で誰かが叫んだ、それを聞いた。

 かぶりを振ってそれを追い出す。ちらりと慧斗を見る。手放しの信頼を得るには流石に時間が足りないらしく幾分か硬い表情でも彼女は眠りに落ちようとしていた。
 傍にあった木切れに手を伸ばし数本くべる。
 ぱちりと軽い音がして、爆ぜた。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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・紅勾、青后、勾+后(@少年陰陽師)

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