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Be praying. Be praying. Be praying.
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定められたテンプレートでもあるのかと思えるくらい聞き飽きた台詞で声をかけられて、天后はまたかと顔には出さずひどくうんざりした。天后が人型を取って街に出ることは回数としては多い方ではないが、ナンパだのスカウトだのに声をかけられるのは珍しいことではない。自分たちは人から願われて生まれた神だが、だからか、少なくともと言うべきか特にと言うべきか、自分たちの外見はどうやら人間の理想を上手く叶えているらしかった。
「一人? ねえ、俺らと遊ばない?」
 いかにも遊び好きな大学生と言うべき風貌の男が三人。天后の外見は第一印象として控えめ、大人しいといった類のイメージを与えやすいらしく(だから気を付けろと勾陣に言われた)、だからか男たちに緊張している様子はない。むしろ押していけばどうにかなるとさえ思っていそうに笑っている。確かに勾陣のような黙って佇んでいてもどこかから滲む凄味などは自分には足りていない要素だが。
「人を待っているの」
 これで彼らが引き下がるとは思っていなかったが、一応最低限の台詞は言っておく。もう少し年齢が上の男ならここで引き下がる者もいるのだが、いかにもな推定大学生たちは「いいじゃんそんなのほっといてさー」と無神経極まりない。経験上半分予想はしていたが、やっぱりかと、気付かれたら面倒なのでこっそりと、天后は息を吐いた。こんなでも種族としては安倍の者たちと同じ(そして天后ら十二神将の『親』とも言うべき)人間なのだと思うとなんだか悲しくなる。
 男たちを完全に無視して携帯を開くと、途端に彼らは不機嫌を醸した。
「えー、無視? 感じ悪いなぁ」
「俺ら優しーけど調子乗ってると怒るよ?」
 それ脅迫じゃないかしらと冷静に思いながらメールを打つ。男たちは次々言葉を重ねてくるが、近い距離と言えど駅前の雑踏に紛れて案外ノイズにもならない。とはいっても至近距離の下心は心をささくれ立たせるには充分だ。
「おい、返事くらい――」
「すまないが」
 ディスプレイに送信完了の文字が浮かんだのとほぼ同時に、荒げかけた男の声を遮って、よく通る低い声が綺麗に響いた。
 顔を上げて、天后の表情がぱっと明るくなる。見事なタイミングだ。
「勾陣」
「私の連れなんだ。返してくれないか」
 涼しい顔で男たちの間に割って入った勾陣は、そのままごくごく自然な動作で天后の腰を引き寄せる。少しだけ高い位置の双眸が面白そうに煌めいて天后を映す。意図を察した天后は返事の代わりに勾陣の右腕に抱きついた。たとえばちょうどカップルが腕を組むように。
 天后は意図してひどく甘えた声を出した。
「もう、遅いわ。久しぶりのデートなのに」
「悪かった。待たせた。怒ったか?」
「しらない。最近あんまりふたりでゆっくりできなかったから、凄く楽しみにしてたのよ」
「すまない、許してくれ。急いだんだ、これでも」
「分かってるわ、拗ねてみただけよ。でも、寂しかったのはほんとうなんだから」
「ああ、今日は埋めあわせだ。おいで」
 だんだん楽しくなってきた。勾陣も心底可笑しいのを堪えている様子で天后の頭を数度撫でる。実際に気持ちよくて天后は小さく肩をすくめた。
 一方で男たちの気配もさっと変わった。待ち合わせ相手も女だったからどうせなら二人とも、なんて舐めたことを考えているような余裕綽々のものだったのが今は困惑を隠さず、表情に至ってはむしろドン引きを顕わにしている。
「え、いや……え?」
「あの、だって、女」
「ええ、だから」
 天后の言葉を引き継いで、勾陣は天后でさえ滅多にお目にかからないほど清々しく爽やかな笑顔で畳み掛けた。
「私たちはこういうわけだから。性別的に無理なんだ、他をあたってくれ」
 流石にそれでもとアタックしてくる図太さは持ち合わせていなかったらしい、男たちはすみませんでしたなどとぼそぼそ言いながら人混みに消えた。姿が完全に見えなくなったのを確認して腕を解く。どうやら微妙に周囲の注目を引いたらしく、ちらと周りを窺うとメールを打っているのかSNSに書き込んでいるのか、こちらを見ながら携帯片手に忙しなく指を動かしている人が何人かいた。
「ありがとう、勾陣。助かったわ」
 ちょうどメールを送ったところだったの、と言うと、勾陣は「そうだったのか」と携帯を確認した。
「まったく、毎度飽きずに沸いてくるものだな、ああいう手合いは」
「ほんとに」
 ナンパを受ける回数、がぶっちぎりで多いのが天后と勾陣の両名だった。理由は単純で、天一は常に朱雀と行動を共にしていて、太陰は完全なるお子様、逆ナンをしかける女の絶対数そのものがナンパ男よりは少ないだろうことが上げられる。それに二人とも外見年齢的にちょうど女子大学生で、そういう部分もきっと余計なものを引っかける要素となっているのだろう。
「だが、よく効くな、これ」
「ね」
 天后と勾陣が同性愛カップルのふりをしてナンパを撃退するのはこれが初めてではない。
 最初に仕掛けたのは天后の方で、今日のように勾陣の腕を組んで甘えた声を出してみた。勾陣も面白がって即座に乗った。今日と同じようにやっているうちに楽しくなって、それが自然と二人の世界に入り込んでいるように見えるらしい。面白いし楽だし即効性があるしで二人とも気に入っている。別に嘘を吐くわけでも極端な演技をするわけでもない。ただちょっと誤解を招くような態度で誤解を招くような雰囲気で誤解を招くような言葉を選ぶだけだ。同性同士で遊ぶことをデートと呼ぶ文化は彰子から教わった。
 余談だが、これを知った青龍からお前らがやると洒落にならんやめろと叱られた。どうやら勾陣も騰蛇から同じようなことを言われたらしい。何が洒落にならないのかはよく分からない。他の誰かならともかく正真正銘の恋人から言われるとは思っていなかったし、見た目として洒落にならないところで自分たちは異性愛者だ。
「だが、待たせて悪かった。もう少し早く来ればお前も絡まれずに済んだのに」
「いいのよ、私も少し早かったから」
 行きましょう、と促して歩き出す。それにあの男たちなら勾陣が早く来ていたところで二人まとめて声をかけて来ただろう。流れとしては同じようなものになったはずだ。そう言うと、そうかもしれないなと勾陣は苦笑した。「引き際を知らない奴が多くて困る」と勾陣は肩をすくめる。彼女は気の強さが外見にも現れているが、そんな彼女に勇敢にもと言うべきか愚かにもと言うべきか声をかけてくる男というのはやはり結構いるわけで、しかも気の強い女と認識して声をかけてくる輩な分、面倒くさいタイプに絡まれる率は天后より上なのだろう。
「……きゃっ!?」
「っと」
 そんな会話の最中、歩道の小さな凹凸に足を取られてこけかけたのを、隣の勾陣が察知して支えてくれた。おかげで無事だ。
「ありがとう」
「気を付けろ」
 人型を取ることがさほど多くない分、ヒールにはどうも慣れていない。素足の感覚で歩くとすぐバランスを崩す。一方の勾陣は危なげのない足取りだ。
 そう言えば今の勾陣の支え方や手の差しだし方はいたくスマートだった。もしも彼女が男性だったなら今の流れはいい具合にカップルの図として見えただろう。青龍が洒落にならないと言っていたのはもしかしてこういうことなのかなと、天后は今更ながらにうっすら思い至った。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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・紅勾、青后、勾+后(@少年陰陽師)

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