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Be praying. Be praying. Be praying.
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なんか受験勉強中だかいっそ高二のときだったか忘れたけど適当に書いたもの見つけたので上げてみる。
ちょっとした日常の話。昌浩と彰子ともっくんと勾陣。
オチはない。ぶつ切り。

碁は小学生のときちょっとやってたのですが(才能がなさすぎて二ケタの級位者で終わった)、その後くらいにヒカルの碁が流行って、その影響受けたみたいなかたちにはたから見たらなってしまったのがちょっと理不尽でした(笑)

 昌浩と、その肩に乗っている物の怪が難しい顔をして石の並びを凝視している。碁盤上の石の並びは対局中のものではない。左上面のみに、白石に取り囲まれるように黒石が並んでいるが、まだ死んではいない。白に取り囲まれ連絡は見込めないものの眼形を作るだけの広さは充分にある。
 昌浩の斜め向かいで、昌浩より落ち着いた面持ちで碁盤を眺めていた彰子は、隣にいる勾陣の耳元で何やら一言囁いた。昌浩と物の怪には聞こえないように手を添えて。
「正解だ、彰子姫」
 勾陣が頷くと、昌浩はさらに碁盤を睨みつけて考え込んだ。



 ことの始まりは単純なことである。彰子の対局相手をつかまつった昌浩が、観客(物の怪と勾陣)の予想通りに大敗した。終局までいかず中押しだった。致命的な局面での読み違いをしてしまったのだ。
「だから俺苦手だって言ったじゃないか…」
 ぼろ負けの悔しさから言い訳がましく弁明したがむしろ逆効果で「でも、石の筋は結構いいと思うんだけど……」と彰子が検討に突入してしまった。昌浩からすれば盤面をもう一度並べ直せる事自体離れ業なので俺負けて当然だなーと思ったのだが、並べ直す際にちらちらと周囲の様子を修正していくのを手伝う物の怪と勾陣も局面を記憶していたらしいことは昌浩をさらに打ちのめした。勾陣は分かる。確かにこう言う遊戯は得意だろう。だから勾陣は分かるのだ。勾陣『は』。
 昌浩としては物の怪までちゃんと覚えていたということが気に食わない。
 そして昌浩が読み違えた局面がもう一度現れ、今度は「じゃあ、ここ?」とまた別な場所を指してみたのだがこれも外れときた。
 ちなみに彰子の示してくれた正解――すなわち、二眼を作れる手は昌浩も一応考えたもので、でもこれは駄目かなと却下したもので、一度却下したものが正解だと知ると一気に疲れた気分になった。何と言うべきなのだろう、この、ちっぽけな絶望感と言うか。
 やはりこんなもの得手不得手、自分は苦手な部類なのだ無理無理。どうせ遊戯だし、確かに出来るに越したことはないけど出来なきゃいけない地位でもないし。と内心で逃げの姿勢に入った昌浩に絶妙の間合いで茶々を入れてきたのが物の怪である。
「まぁ、昌浩は頭使うの苦手だからなー」
 遠まわしに馬鹿だと言われている気がしてかちんときた。
「そう言うもっくんだって頭使ったり力調節したりするの苦手じゃないか。自分が苦手なことで人からかうな。大体もっくんだって囲碁なんて苦手だろ?」
「決めつけるな!」
「だってどっからどう見ても囲碁できますーとか見えないしさ! 有り得ない有り得ない! ねぇ勾陣、もっくんって碁、強い?」
 いきなり話を振られた勾陣はふむ、と少し考え込んだが、
「物の怪が誰かと対局したのは見たことがないからどうとも言えんが、確かに昌浩の言う通り、こいつは囲碁は苦手な部類だろう」
「勾っ、お前が言い切るなお前が! というか物の怪いうな!」
 勾陣は二つ目の抗議はきれいに聞き流した。
「別に誰も出来ないとは言っていないだろう。それに断言したわけでもない。ただ普段のお前を見ていると、昌浩の言を否定するだけの根拠がないのも事実だ」
 この時点で昌浩と物の怪の言い争いが勾陣と物の怪のそれに変化している。
 完全に蚊帳の外となった彰子は大人しく盤面を見て、それから対局の昌浩の手のことを思い出した。彼の手は悪くはない。あんまりにも外れた場所には置かないし定石も心得ている。ただぽろぽろと悪手が多く、時々致命的に読み違う。その隙にこちらが更に攻め込んだらもう立て直せない。
「昌浩って、死活苦手なの?」
 当事者だったはずなのに物の怪が噛みつく対象が横滑りしたために同じように蚊帳の外となっていた昌浩に問いかける。昌浩はうーんと米神を人差し指で掻いた。
「苦手…そうなのかなぁ。大体この辺に打てばいいってのはなんとなく分かるけど、『ここ!』てのは自信ない。でもどうして?」
「ううん、何となく。だって攻める手は悪くないのに守る時によく間違ってたから」
 ここで言い争いを切り上げた物の怪が一言呟く。
「確かに昌浩は基本的に『攻撃は最大の防御』でどうにかしてるからなぁ、あらゆる局面で」
 それは決して囲碁に限ったことではない。
「もっくん、いちいち五月蠅い」
 しっしとあからさまに邪険に手を振って、昌浩お前その態度は何だ、とまた喚き始めた物の怪は勾陣が首根っこを掴んで拘束してくれたのでその文句を敢えて意識の外へ締め出して、昌浩は唇を尖らせた。
「でも、そう言う読みってどういう風に上達するんだ? じい様と対局したりはしてるけどぜんっぜん分かんない」
「うーん……」
 彰子は結構真剣に考えてくれているらしいが、実は昌浩はなんとなくその理由が分かっている。ただ単純に適正。たぶん九割。
「なら、詰め碁はどうだ?」
 ここで勾陣が口をはさんできた。彼女も放せ降ろせと五月蠅い物の怪は完全無視の態勢に入っている。たぶんこれ以上五月蠅くなったら部屋の隅にでも放り投げるだろう。
「詰め碁?」
「なんだ、しないのか? 読みを鍛えたい場合には一番効果的だと思うんだが」
 そう言いながら勾陣は盤上の石をざっと一ところに掻き集め、ぱちぱちと慣れた手つきで(物の怪を掴んでいない方の手だ)あるかたちを作っていく。
「流石に五目中手や七目中手くらい分かるだろう?」
「…勾陣、俺そこまで初心者じゃない。もっくんはともかく」
「そうだな、すまない」
 俺はともかくとは何だと喚く物の怪を「五月蠅い」と一言で切って捨てた後軽くだが本当に放り投げて(勾陣の左隣二歩くらいの所にぽすんと悲しい音がして物の怪が落ちた)呼吸三回分後、勾陣は石を並べ終えた。
 昌浩と彰子が興味津津の体で覗き込む。戻ってきた物の怪は勾陣に抗議することもなく(勾陣が並べた石への好奇心が勝ったのか何を言っても無駄だと諦めているのかは知らないが)昌浩の肩に乗って同じように盤面を見た。
「黒先、生き。一手のみでいい」
 そして冒頭に戻るわけである。



「でも勾陣、これ結構難しいけど、どこで知ったの?」
 答え合わせを終えた彰子は既に談笑の姿勢である。
「知った、と言うより、作った、と言う方が正しいな。暇な時に、太裳とよくね。詰め碁が一番得意なのも彼だ」
 彰子は太裳と直に会ったことはなかったが、それが十二神将のひとりだということは知っているのでその点には突っ込まない。
 きっと他にも色々な問題を知って(作って)いるのだろう。強請ったらもっと教えてくれるだろうか、と彰子は目を輝かせる。教養として教わったものだが、彰子は囲碁が好きだった。暇つぶしには最適だし無数にある手から最善を選びだしていくのは面白い。
「勾陣は、囲碁得意なの?」
「まぁ、得意な方だろうな」
「今度私と打ってほしいわ。駄目?」
「いいや、お相手しよう」
「あー、彰子。俺から一つ忠告だ」
 長考の姿勢だった物の怪がいきなり口をはさんできた。
「忠告?」
 小首を傾げる。豊かな黒髪が揺れた。
「中盤でよっぽど差をつけとかないと確実に負けるぞ」
「?」
 物の怪のくれる『忠告』の意味を掴みあぐねて彰子は疑問符を浮かべた。中盤で勝たないと負ける、ということは勾陣は終盤に強いのだろうか。けれど終盤には挽回できる箇所も限られてくるし、そんな凄まじい快進撃はあまり期待できないと思うのだが。
 そんな彰子の内心が見えたかのように物の怪は続ける。
「こいつ無駄にヨセが強いんだ。晴明とやってて目算で十目は開いてたのにひっくり返したことがある」
 ちなみに白番。しかも一度や二度ではない。
「十目って…」
 呟いたのは昌浩だ。
 一目二目の差で勝負が決まることが多い囲碁において十目はかなり大きな差だ。それを全てヨセでひっくり返すとすれば――確かにそれは無駄に強いとしか言えない。そもそも白を持つ時点で五目六目は相手にやっているといっても同然だというのに。
 大ヨセ以降は殆ど一本道と聞くものの、ヨセまで行ったらどこから攻めても同じだろうとしか思えない昌浩には未知の領域である。ただでさえこまごまとした判断が苦手で、まだ攻められる箇所があるのに見逃して駄目を埋めに行ってしまう昌浩だ。
 勾陣は苦笑を零した。
「確かに終盤は得意だが、それだけでは勝てない相手もいるし、特別凄いわけではないよ」
「あー、天空とか」
 相槌を打ったのは物の怪だ。
「翁はまさに『無駄に強い』だからな。全般的に」
「だろうなー。負けなしだろ、あいつ」
「ところで物の怪よ、解けたのか?」
 物の怪は「だからお前まで物の怪言うな」とお決まりの文句を返した後、質問には答えずに考え込んだ。まだ分かっていないようだ。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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