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友達に昌浩裏切りパラレルを見せたら好評だった上に「昌浩vs紅蓮で殺し合い頼む!」と言われたから書いた作品。なんつーリクエストじゃてめぇ。
昌浩がヤンデレ化した……? …いや違うな、デレてはない(否定するのはそこか
ノット死ネタです。

こういうあり得ない未来を想像するのも二次の醍醐味だと思うわけですよ。

 その子が自分たちを裏切った理由を、紅蓮は幾度も深く考えたが、一度たりとも理解し得たことはなかった。『裏切り』という行為そのものが、昌浩から遠くかけ離れていたものだったからだ。自分以外の全てを傷つけることをいたく嫌う彼が、その大切なもの全てを傷つける真似に及ぶ理由は、十三年の間傍で彼を見続けた紅蓮を以てしても不可解なことだった。
 しかし目の前で「久しぶりだね」と無邪気に笑う昌浩を一目見てから胸中を占める違和感が、理解し得なかったのは当然のことなのだと告げていた。紅蓮は紅蓮の覚えている昌浩像で考えていた――始まりがそもそも間違っていたのだ。
 道が分かれたその瞬間から、昌浩は紅蓮達の知る昌浩ではなくなっていた。
「……昌浩。何をするつもりだ」
 厳しい眼つきで周囲を窺いながら発した声音は、詰問と言って差し支えない程に鋭い。それなのに昌浩は「んー?」と、まるで白い異形の姿を取ったときの紅蓮がどうでもいいことを抗議していた時の如く間の抜けた声を上げ、笑う。
 紅蓮が自分に害を為さないと知っている、笑みだ。
「あぁ、ここ? 凄いだろ、一応自分で作ってみたんだ。強度もそれなりのはずだよ、紅蓮の炎じゃびくともしないと思う」
「はぐらかすな。……答えろ、昌浩」
 紅蓮の声は硬い。窺知し難い『敵』に対する警戒と威嚇に抜き身の怒りを忍ばせた声。彼に対してこのような声音を作る日など想像だにしなかった。
 昌浩は「そんな慌てなくてもいいじゃないか」と肩をすくめ、また笑った。
 紅蓮が見てきたどの笑顔よりも、酷く無垢な印象を受けた。
「ちょっと、ね。別に本意なわけじゃないけど、仕方ないことってあるじゃないか。だからその『仕方ないこと』をするために。十二神将一人でもきついのに二人も三人も来られたら堪ったもんじゃないし」
 明確な答えを敢えて避けるかのような物言いに、紅蓮の表情がさらに険しくなる。
「大したことじゃないよ。ちょっとしたお願い。紅蓮なら聞いてくれるよね?」
 紅蓮は、この時――本当に、この時初めて――危険だ、と思った。何か訳があるのだろうと思っていた。たとえば、誰か――高確率で彰子――を盾に取引を迫られた、だとか、かつて自分が掛かったと同じ、縛魂術を掛けられている、だとか。
 違う、これは昌浩だ。等身大の彼だ。ありのまま彼であり、彼の全てが彼だ。
 そして紅蓮は、良くも悪くも余りにまっすぐな昌浩の意志の強さを、おそらく誰より知っている。
「紅蓮さ、」
 静かに、昌浩は片手で印を組んだ。

「ちょっと、俺に殺されてくれない?」

 記憶よりも遥かに激しく鋭く、明確で無邪気な殺意に溢れた霊力が放たれた。





「何故だ、昌浩!」
 人為的な閉鎖空間に荒れ狂う霊力と爆音の渦の中、紅蓮は声を張り上げた。その隙にも新たに風の刃が紅蓮を狙う。焔で障壁を作りそれを凌いだ紅蓮は、当たらぬように細心の注意を払って炎蛇を放つ。昌浩のすぐ右隣りを通り抜けた焔の蛇はそのまま空間に溶けた。昌浩は一歩たりとも動かなかった。人好きの良い微笑を浮かべたまま、襲い来る炎蛇をこともなげに眺めていた。紅蓮が自分を狙っていないと分らなければ出来ない行為だ。
「どうしてって、決まってるじゃないか」
 どうしてこんな簡単なことが分からないの? と言外に問いかけてくるその声音は、昔と全く変わらない。
 昌浩は符を構えたまま、紅蓮は右腕に焔を纏わせたまま、奇妙な均衡を以て静寂が降る。
「強くなるためだよ。皆を裏切ったのも、そのため。敵になってるのも、そのため。……強くなりたいんだ」
「俺を殺して、か?」
「ううん、それは目的じゃないよ。手段手段。今色々俺に教えてくれてる人の命令。ちゃんとやったらもっと色々手取り足取り教えてくれるし、彰子にも手は出さないって言うから」
「その約束が嘘でないと言い切れるのか?」
 十二神将を屠れ、と命じる人物ならば、目的は晴明である確率が非常に高い。しかし、安倍の家に厄介になっている少女が本来入内しているはずの藤原彰子であることは知られていないとしても、相当の霊力を持った娘が世話になっている程度の噂は多少の情報網を持っている者なら知り得ることだ。だとすれば目的が彰子である確率も非常に高く、その約束は信憑性を著しく欠く。
 昌浩は昔から物事を多面的に捉えることを苦手とする子供だ。間抜けな話ではあるが、その危険性に気づいていないのかもしれない、だとすればまだこちらに戻って来れる――そう考えていた紅蓮は、自分の甘さを痛感する。
「それが、どうしたの?」
 大きな黒目をきょとんと丸く見開いて、心底不思議そうに昌浩は尋ね返した。
「知ってるよそんなことくらい。そうなったら今度はあの人を裏切って彰子を護るだけのことだ。それまでにあの人より強くなれば、出来るだろ? それくらい。俺はあの安倍晴明の孫で、一度は後継って言われてたんだよ?」
 紅蓮は小さく息を呑んだ。かつてはどれ程小さく呟こうが執念でその音を拾い凄まじい勢いで「孫言うなっ!」と叫んでいた彼が、今自らそれを口にした。
 紅蓮の知る昌浩と目の前に符を構える昌浩が重ならない。
 昌浩に助けられた彰子が言っていた。あの昌浩は誰だったの? と。
 ――こういうことか、畜生!
「臨める兵闘う者、皆陣裂れて前に在り!」
 九字の真言が朗々と響いた。それを危なげなくかわした紅蓮は再び焔を放つ。しかしやはり当てるわけにはいかないという紅蓮の内心を分かっているのか、彼は動きもせずそれをやり過ごした。
「紅蓮、覚えてる?」
「……何を?」
「紅蓮が縛魂で囚われて、俺を殺しかけた時のこと」
 柔らかく穏やかな声音が、塞がりきらない傷を容赦なく抉った。心臓が止まるような思いで昌浩を凝視する。
 何を。何を言うつもりだ、この子は。わざわざ俺を傷つけて、一体何を。
 ばくばくと煩い心臓を努めて静めながら、紅蓮はあぁと唸るように低く答えた。
「あの時さ、紅蓮傷ついたよね。知ってるよ。……でもさ、紅蓮、知ってる? 俺、あの時絶望したんだ」
 昔日を懐かしがるように凪いだ昌浩の眼、その奥の真意が読めない。
「紅蓮は知らないだろ? ……誰より信頼していた相棒に殺される絶望」
 呼吸を忘れた。
 脳裏に浮かぶ光景がある。あの瞬間紅蓮には自我だけがなく、他の全てが残っていた。記憶も、感触も。忘れられるはずがない、あの一瞬。この爪が貫いた、柔らかく温かい命の流れ出た瞬間。褪せない記憶は彼を責め立て、その心を雁字搦めに絡み取る。
「紅蓮は大事な相棒だからさ。特別に教えてあげる。最期に教えてよ。答え合わせしなくちゃいけないから」
 昌浩が空に晴明桔梗を描いた。まずい、と咄嗟に、言葉の刃が刺さったままの体を叱咤し動かす。迷いなく放たれた術の鋭さに呆然としながら、紅蓮は焔でそれを防いだ。
「ねぇ、もう無駄なことやめたら?」
 昌浩が紅蓮に向かって、指を二本立てて右手を突き出す。
「十二神将は人を傷つけてはならない、殺してはならない」
 その声をどこかで聞いたことがあると思った紅蓮は、警戒はそのままに記憶の箱を丁寧に探った。思いの他すぐに見つかる。白い異形の姿を取った自分を首に巻いて暖をとり、あったかいねぇ、なんて呑気に言っていたあの時と全く同じ声だ。
「まして相手が俺なんだから、紅蓮攻撃しようがないじゃないか」
 もっくんはもっくんだよ、と言い切ったあの時と同じ声。
「俺は紅蓮に理を犯させたいわけじゃないよ。そうしたら紅蓮、絶対深く傷つくから。でも俺を倒さないとここから出られない。困ったね?」
 首を傾げた昌浩が前振りなしに霊力を放つ。焔で防ぐ。互いに中距離戦を得意としている、攻撃は防ぎやすいし防がれやすい。

「だからほんと、さっさとやられてくれる?」

 昌浩の言は真理だ。紅蓮は昌浩を攻撃できない。昌浩を倒さぬ限りここから出られはしない。
 だからと言ってみすみす殺されてやるわけにも、当然ながらいかなかった。
 命が惜しいわけではない。生きてみたい思いは確かに重くある、しかし今紅蓮にとって重要なのはその点ではなかった。
 紅蓮の知る安倍昌浩という少年は、陰陽師として生きていくには優しすぎる少年だ。他者を傷つけることを嫌い、他人の傷に敏感で、敵の死すら素直に悼むことを知る少年だ。
 紅蓮は昌浩に近い。いい相棒になれていたと、思っている。過去形でしか語れないことに一抹の寂寥を覚えた。
 近かったからこそ――殺されたら、昌浩が自分を殺したら、きっと酷く傷つくだろう。紅蓮を悼み、痛むだろう。それが容易に想像できるからこそ殺されてやるわけにはいかない。あの優しい心を傷つけてはならない。
 ――――まだ、彼が他人の死を悼める人間であれば。
 そこまでを考えて、唐突に紅蓮の脳裏に閃いたものがある。閃いた傍から深淵へ沈んでいきそうなそれを必死で手繰り寄せ、重ならない違和の正体を紅蓮は必死で探した。見落としてはならない何かを、今確かに掴みかけたのだ。昌浩の裏切りの理由、敵対の理由、考えて考えて、それでも濃度の高い霧の中に隠れ続けたそれの一欠けらを、今見出した気がした。
「昌浩!」
 襲い来る霊圧を焔をぶつけることで相殺する。強い力がぶつかり合うことによって突如生じた風圧を全身に浴びながら紅蓮は叫んだ。

「陰陽師に――誰も傷つけない、犠牲にしない、最高の陰陽師になるんじゃなかったのか!!」

 暴風から眼球を護るために反射で閉じられかけた瞼を必死で開くと、きょとんと瞬きを繰り返しながら紅蓮を見る昌浩を認めた。届いたか。一瞬の期待は刹那に打ち砕かれる。
「そうだよ。なりたかった。――でもごめん、その約束は反故だ」
「なっ……」
 あまりにあっさりと否定され、紅蓮は二の句を失った。
「気づいちゃったんだ。全部守ろうとするから、訳分からなくなるってさ。…あの時――出雲で、比古に術を使ったとき。……彰子を護りたいなら、紅蓮やじい様との約束を律儀に守ってちゃ無理なんだって、分かっちゃったんだよ」
 ――…………そうか。
 紅蓮は全てを了解した。
 まっすぐな子だ。良くも悪くも、何事にも。途方もなく遠いたった一つのためにひた走ることを知っている子。こうなる潜在的な危険性はとうの昔から持ち合わせていた。
 たった一つを選ぶことを、彼は選んでしまったのだろう。貪欲に甘ったれて全てを望んでいた昌浩が、それが甘ったれの理屈だと知った時、全てを果たすことなど到底不可能だと知ってしまった時。誰も彼にそれを強要はしなかった、むしろ彼がその矛盾を抱えてなおひたむきに全ての約束を果たそうと歩く姿を期待していた。けれども現実は違う。確かに甘ったれた約束を切り捨てることで、昌浩は『彰子を護る』という約束だけを守り抜く力を得、その分確かに強くなった。対峙していてそれは嫌というほど分かる。いくら紅蓮が実力の十分の一も昌浩相手に出せないと言っても、この亜空間を保ったまま紅蓮と闘い続ける芸当がかつての昌浩に出来たわけがない。霊力が切れそうなそぶりひとつ見せず、まだ精神的余裕も強く残し、自信に満ちて紅蓮に対峙している、昌浩。
 彼は、途方もなく強くなった。
 信じがたいほど成長し、力を手に入れた。

 現実に彰子を護り敵を退くだけの力を得ると同時に、彼は誰もが彼の美徳と称えていた、利他という必要不可欠な弱さを失ったのだ。

 誰もが知っていた安倍昌浩は、もう――――

 紅蓮は無言のまま右腕を横薙ぎに振るった。風を切る焔が灼熱の意志を伴い昌浩に襲いかかる。ぴくりと片眉を寄せた昌浩は小さく呪を唱えて霊壁を織り成し危なげなくそれを凌ぐ。
「うわ、今の何もしなかったら俺黒こげだったよ?」
「どうせ防いだだろう――今みたいにな。どうやらお前は俺が知っているよりずっと強いようだ」
「へぇ?」
 昌浩がにぃと笑う。
 紅蓮は再び右腕を薙ぎ払った。
「よく分かってるじゃん、紅蓮」
 放たれた焔を追うように紅蓮も昌浩目掛けて突進する。十二神将は人を傷つけてはならない、殺してはならない。故に自前の得物は使えないが、肉弾戦となれば昌浩は圧倒的に不利になる。剣術は才能なしの太鼓判を押され、体術は鍛えてこなかった子供なのだ。体当たりなり当て身なりを食らわせて意識を奪い、問答無用で連れ帰って間違った方向に突き進んでしまった彼の『正義』を矯正しなければ――
 昌浩が焔を凌いだ瞬間、押さえつける。
 そう定めて低い姿勢を保ったまま疾走していた紅蓮は、唐突に襲いかかる焔に目を見開いた。
「!?」
 状況把握も出来ぬまま、闘将としての本能でそれを身をよじって回避する。それが焔なのだと知ったのも、やり過ごした後だった。蒼い焔だった。今紅蓮の操っている朱より高温の、蒼き熱。
 今のは、昌浩が? 愕然と、砂を巻き上げて視界を遮る風の向こうにたたずむ少年を見やる。紅蓮が知る昌浩は火属性の術を扱うことは知らない少年だった。いくら目の前の昌浩が紅蓮の知る彼とかけ離れてしまったと言っても、一朝一夕であれ程の焔の術を繰り出せるはずもない。自分たちと彼の道が分かれてしまって、まだ一年と経っていないのだ。
 砂交じりの風が凪いでいく。
 昌浩の傍らに、ひとつの影がある。大きな猫か小さな犬程の影がひょいと長い尾を揺らす。その影が全貌を現した時、紅蓮は驚愕で息を忘れた。
 白い異形が、そこにいる。
 紅蓮が変化した時の姿と全く変わらぬ、白を基調とした体に落日の色を宿す双眸、額に赤き花の形をした模様を刻み首の周りには瞳よりは淡い透明な紅の突起が一巡している――昌浩が「もっくん」と冗談半分に名付けその呼び名を定着させてしまった、紅蓮の姿がそこにあった。
「驚いた?」
 腰をかがめた昌浩は、白い異形の頭をひと撫でして悪戯ぽく笑った。
「式だよ。紅蓮の神気を込めて作ったから、焔は馬鹿にした威力じゃないと思うよ。前さ、もっくんの式作ったことあっただろ? その応用。あと、先に言っておくけどこのふたりもただの式だからね」
 気づけば昌浩の背後に、昌浩より長身の人影が、彼の言う通り二つ分たたずんでいる。その輪郭を一目見た段階で、紅蓮は嫌な予感がしていた。彼らの顔を確かめて、紅蓮は痛みを堪える子供のように顔をくしゃりと歪めた。予感はしていた。その背格好と神気から。おそらく白い異形の式と同じように、どうにかして手に入れた本物の神気を練りこんで丁寧に作り上げたのだろう。
 予感はしていたのだ。現実に見たくなかっただけで。
 昌浩はこれを、ただの式だという。
 同胞――十二神将勾陣と、十二神将六合の姿を模した、式。
 目の前の景色に、彼は酷い既視感を覚えた。紅蓮はこれを知っている。こうやって作られた景色を知っている。とてもとても居心地がよく、ずっとその雰囲気にたゆたっていたいと思ってしまうほど優しい、紅蓮もまたそれを構成していた、掛け替えのないひとつの風景――
「いつもの、夜警の面子だよ」
 昌浩がまた、柔らかく笑う。
 紅蓮は呆然と立ち尽くし、肯定も否定も出来ず昌浩の言を聞いた。正体のわからない手が心臓を掴んで酷く息苦しい。
「ねぇ、紅蓮」
 心底不思議そうな声。この時だけで、何度めだろう。
 窺うように、本当に本当に無邪気な声音で昌浩は言った。

「どうして紅蓮はそこにいるんだ?」

 ――皆、ここにいるのに。どうして紅蓮だけが俺の敵になっている?

 ぎり、と紅蓮は唇を噛んだ。
 苦く、絶望の味がした。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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・紅勾、青后、勾+后(@少年陰陽師)

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