Be praying. Be praying. Be praying.
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少年陰陽師・紅勾。
姐さんは淡々と紅蓮に酷いこと言って欲しい。
そして言い返せない紅蓮(笑)
話を書けば書くほど両想いなのは勾陣と天后な気がしてならなくなってくる。
姐さんは淡々と紅蓮に酷いこと言って欲しい。
そして言い返せない紅蓮(笑)
話を書けば書くほど両想いなのは勾陣と天后な気がしてならなくなってくる。
座っていた。ふたりで。背を合わせていた。全く違う景色を見ているのだが、砂礫の広がるだけの場においてどこを見渡しても景色に変化はなかったから、同じ景色を見ている、とも言えた。ただ、騰蛇の視界が認める色だけは、勾陣にはとんと分からなかった。
会話をしていた――勾陣が騰蛇に向けて独り言のように言葉を投げかけるだけの、とてもとても一方的な会話をしていた。騰蛇は彼女の言葉をただ聞いているだけだった。彼女に伝えるべき情報を騰蛇は何も持っていなかったから(騰蛇の知っていることは殆ど彼女もまた知っていた)。もっとも、彼女の言葉は、騰蛇にとってこの異界の大地に広がる砂粒ほどの価値も持たなかった。
勾陣はそれを、知っていた。
人界が夏になっていたよ。
目を引く花があったから、天后に名を尋ねて。
えぇと、なんだったかな、確か――
太陰がはしゃぎすぎて、人界の山の木をいくつかなぎ倒してしまうことがあったんだ。
だから今、白虎と膝を突き合わせているはずだ。
今回はどれだけかかるかな。
以前朱雀が誰かに召喚されたことがなかったか?
本人が何も言ってこない以上、大したことではなかったんだろうが。
何か知っているか? ……いや、知っているわけ、ないか。
そう言えば偶然国津神に会ったよ。
いや、まぁ、それだけなんだが。
名を聞くのを忘れたな。聞いても教えてくれなかっただろうが。
騰蛇は相槌すら返さなかったが、勾陣はそれを気にも留めなかった。この程度のことで気分を害するのなら、そもそも騰蛇を話し相手に選んだりはしない。天后との会話の方が何百倍も楽しい。それでは何故わざわざ返事の返って来ない会話をしているのか。勾陣はその理由も分かっていた。
彼女はたったひとつを除いて何もかもを分かっていた。それでいて敢えて知らないふりをしていた。その方が楽だったからだ。騰蛇に「何故わざわざ来る」と尋ねられたときだって、「なんとなくだ」とだけ返したら、納得はしていなかったがそれ以上詮索はしてこなかった。
なぁ騰蛇。
呼びかけて、はじめて、騰蛇は少し反応した。合わせた背から、何やらもぞりと動いた感覚が伝わった。肩越しに振り返る。すぐ近くにある、褐色の肌と、濃紅の髪。こちらを向きはしないだろうと予想していたので、彼女はむしろ己の観察眼を内心褒めた。
黙っていると、なんだ、と声がした。やっと話しかけたな。知らず口角が上がる。さして期待はしていないが、一方的な会話は疲れるのだ。この際勾陣が自分の言葉で彼がどんな感情を抱くのかなんてことをこれっぽっちも考えてはいないことは関係がない。
要望にこたえてやった。
今この瞬間に意味はあると思うか?
そして、返って来たひとことに、笑った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
座っている。ふたりで。向かい合っている。互いの目の前には麦茶と氷の入ったガラスコップが置かれていて、薄く色づいた影をテーブルに落としていた。一口飲む。からん。氷がぶつかり合う透明な音がして、唇が覚える冷たさ、胃へ下る液体が喉元に凝っていた暑い空気を持って行って、少し呼吸が楽になった気がした。
ふと気付けば紅蓮は窓の外を恨めしげに見ている。彼に倣う。庭が眩しい。蝉が断末魔のように鳴いている。
「……夏だな」
時計を確認する。午後二時半。
「猛暑日だそうだ。36度」
「俺、今日買い物なんだよなぁ」
「ご愁傷様」
そっけなく言って、「騰蛇、お代わり」空になったコップを出す。
「自分でやれ、それくらい」
面倒くさそうな顔をしながら、彼はコップを受け取って氷とお茶を入れてくれた。
「先に言うが、私は喜んで留守番をしているからな」
「勾。俺は優しさが欲しい」
「あいにく品切れだ。残念だったな。と言うかお前が欲しいのは優しさではなくて巻き添えだろう」
ひとりで溶けてこい。そう言い放つと紅蓮は椅子の背に思い切り凭れかかった。
この暑い中買い物に出なくてはいけないことは素直に同情するが。そして勾陣が買い物を頼まれていたのなら迷わず紅蓮を連行していくが。この際それは関係ない。無駄に汗をかきたくはない。
「長い付き合いなのに」
「長い付き合いだからだ」
「天后が出かけるなら付いていくだろう」
「何を当たり前のことを」
紅蓮のじと目を完全に無視して、勾陣は再びお茶を口に含んだ。夏場の冷たいものはごちそうだ。
あぁそう言えば確かあの会話をしたのも夏だった。あの日人界はどんな景色だったのだろう。
「お前はむしろ長い付き合いで私に呆れられていないことを光栄に思え」
「何だその上から目線は」
「ひとつなら言いたいことがあれば聞いてやる」
「二つな。お前にそんなこと言われる筋合いはない。それから普通に呆れてるだろう」
「よく分かってるじゃないか」
くつくつと、勾陣は笑う。片頬をひくりと動かした紅蓮は、けれどそれ以上何も言ってこない。胃の中で言葉を消化している最中なのだろう。何が起ころうと――少なくとも万全の体調であれば――勾陣が紅蓮に口で負けることなどありはしないと、もっともよく分かっているのは彼だろうに。
投げかける。返ってくる。返らない前提で投げてみる。それでも返ってくる。間合いを把握しつくしたキャッチボール。
何もかも心地よく変わってしまった。
「……そう言えば本当にいつからの付き合いだ?」
紅蓮が首を傾げる。いかつい男がそんな仕草をしても似合わない。
何を唐突に。勾陣は肩をすくめた。
「一応発生したその時からということになるんじゃないのか」
「でも話しだしたのはもっと後じゃなかったか? 晴明に下るよりは前だったと思うが」
「覚えていないのか?」
紅蓮は首を振った。曖昧な笑顔で困ったように。
「一応、なんとなく。勾がよく俺のところにきたことは覚えている」
「……一度だけ」右手人差し指を立ててみせる。「一度だけ、お前に何か尋ねたことがあったと思うが、覚えているか?」
瞠目した彼は目線を上へ下へ右へ左へ泳がせながらしばらく考え込んだが、恐る恐るといった体で首を振った。叱られまいかとびくびくする子どものようだ。
満足げに勾陣は微笑んだ。紅蓮は不審げに眉をひそめたが何も聞いてこなかった。助かった? と、その目が告げていて面白かった。
あの日々。背中合わせで無価値な言葉を投げ続けた。返って来ないことは知っていた。まだ覚えている。覚えていようと努めたから。
一度だけ尋ねたのだ。
今この瞬間に意味はあると思うか?
彼はひとこと、「知ったことか」とだけ、言った。
「お前は覚えているのか?」
凄い記憶力だな、と感心した風に彼は言う。
に、と悪戯に微笑む。
「まさか」
「は?」
「嘘だ嘘。覚えているわけあるか。お前との思い出をそんなに大事にして何になる」
「勾。暴言」
「優しさだ」
「看板に偽りまみれだなおい」
品切れ中じゃなかったのか。忌々しげに突っ込んでくる彼を無言のまま受け流して、窓の外を指差した。
「買い物。行くんだろう?」
「付いてきてくれるのか?」
「まさか。アイスとチューハイ買ってこい。アイスはカップの奴な。箱のじゃなくてハーゲンダッツでもいいぞ」
「……あのな…………」
また、頬を引き攣らせて、彼はお茶を煽った。氷も溶け切っていたが冷たかったらしく目を閉じて何かに耐えている。ばか、と一言言い放ったが文句はなかった。余程こたえたらしい。本当にばかだ。
「なぁ騰蛇。今この瞬間に意味はあると思うか?」
紅蓮はこの日一番不審げな顔をして勾陣を見た。
「……部屋の中はそんな暑くないよな?」
「羊羹とわらび餅。追加」
「……そんなに食べるつもりなのか」
「天后とな」
「…………俺は?」
「買ってくればいいじゃないか」
紅蓮は目を閉じ、たっぷりと間を開けてから溜息と共に立ち上がった。微笑みながら手を振ってやる。
一時間もしないうちにリクエストを提げて帰ってくるだろう。
そうしたら嫌がらせ兼ねぎらいにカルピスソーダでも作ってやろうか。どんな顔をするだろう。詫びがてら夕飯の手伝いくらいはしてやろう。
意味は。
あったのだろうか。あるのだろうか。
忘れられた瞬間に。いつか忘れられる瞬間に。
ただ、彼女はこの瞬間を忘れはしない。
会話をしていた――勾陣が騰蛇に向けて独り言のように言葉を投げかけるだけの、とてもとても一方的な会話をしていた。騰蛇は彼女の言葉をただ聞いているだけだった。彼女に伝えるべき情報を騰蛇は何も持っていなかったから(騰蛇の知っていることは殆ど彼女もまた知っていた)。もっとも、彼女の言葉は、騰蛇にとってこの異界の大地に広がる砂粒ほどの価値も持たなかった。
勾陣はそれを、知っていた。
人界が夏になっていたよ。
目を引く花があったから、天后に名を尋ねて。
えぇと、なんだったかな、確か――
太陰がはしゃぎすぎて、人界の山の木をいくつかなぎ倒してしまうことがあったんだ。
だから今、白虎と膝を突き合わせているはずだ。
今回はどれだけかかるかな。
以前朱雀が誰かに召喚されたことがなかったか?
本人が何も言ってこない以上、大したことではなかったんだろうが。
何か知っているか? ……いや、知っているわけ、ないか。
そう言えば偶然国津神に会ったよ。
いや、まぁ、それだけなんだが。
名を聞くのを忘れたな。聞いても教えてくれなかっただろうが。
騰蛇は相槌すら返さなかったが、勾陣はそれを気にも留めなかった。この程度のことで気分を害するのなら、そもそも騰蛇を話し相手に選んだりはしない。天后との会話の方が何百倍も楽しい。それでは何故わざわざ返事の返って来ない会話をしているのか。勾陣はその理由も分かっていた。
彼女はたったひとつを除いて何もかもを分かっていた。それでいて敢えて知らないふりをしていた。その方が楽だったからだ。騰蛇に「何故わざわざ来る」と尋ねられたときだって、「なんとなくだ」とだけ返したら、納得はしていなかったがそれ以上詮索はしてこなかった。
なぁ騰蛇。
呼びかけて、はじめて、騰蛇は少し反応した。合わせた背から、何やらもぞりと動いた感覚が伝わった。肩越しに振り返る。すぐ近くにある、褐色の肌と、濃紅の髪。こちらを向きはしないだろうと予想していたので、彼女はむしろ己の観察眼を内心褒めた。
黙っていると、なんだ、と声がした。やっと話しかけたな。知らず口角が上がる。さして期待はしていないが、一方的な会話は疲れるのだ。この際勾陣が自分の言葉で彼がどんな感情を抱くのかなんてことをこれっぽっちも考えてはいないことは関係がない。
要望にこたえてやった。
今この瞬間に意味はあると思うか?
そして、返って来たひとことに、笑った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
座っている。ふたりで。向かい合っている。互いの目の前には麦茶と氷の入ったガラスコップが置かれていて、薄く色づいた影をテーブルに落としていた。一口飲む。からん。氷がぶつかり合う透明な音がして、唇が覚える冷たさ、胃へ下る液体が喉元に凝っていた暑い空気を持って行って、少し呼吸が楽になった気がした。
ふと気付けば紅蓮は窓の外を恨めしげに見ている。彼に倣う。庭が眩しい。蝉が断末魔のように鳴いている。
「……夏だな」
時計を確認する。午後二時半。
「猛暑日だそうだ。36度」
「俺、今日買い物なんだよなぁ」
「ご愁傷様」
そっけなく言って、「騰蛇、お代わり」空になったコップを出す。
「自分でやれ、それくらい」
面倒くさそうな顔をしながら、彼はコップを受け取って氷とお茶を入れてくれた。
「先に言うが、私は喜んで留守番をしているからな」
「勾。俺は優しさが欲しい」
「あいにく品切れだ。残念だったな。と言うかお前が欲しいのは優しさではなくて巻き添えだろう」
ひとりで溶けてこい。そう言い放つと紅蓮は椅子の背に思い切り凭れかかった。
この暑い中買い物に出なくてはいけないことは素直に同情するが。そして勾陣が買い物を頼まれていたのなら迷わず紅蓮を連行していくが。この際それは関係ない。無駄に汗をかきたくはない。
「長い付き合いなのに」
「長い付き合いだからだ」
「天后が出かけるなら付いていくだろう」
「何を当たり前のことを」
紅蓮のじと目を完全に無視して、勾陣は再びお茶を口に含んだ。夏場の冷たいものはごちそうだ。
あぁそう言えば確かあの会話をしたのも夏だった。あの日人界はどんな景色だったのだろう。
「お前はむしろ長い付き合いで私に呆れられていないことを光栄に思え」
「何だその上から目線は」
「ひとつなら言いたいことがあれば聞いてやる」
「二つな。お前にそんなこと言われる筋合いはない。それから普通に呆れてるだろう」
「よく分かってるじゃないか」
くつくつと、勾陣は笑う。片頬をひくりと動かした紅蓮は、けれどそれ以上何も言ってこない。胃の中で言葉を消化している最中なのだろう。何が起ころうと――少なくとも万全の体調であれば――勾陣が紅蓮に口で負けることなどありはしないと、もっともよく分かっているのは彼だろうに。
投げかける。返ってくる。返らない前提で投げてみる。それでも返ってくる。間合いを把握しつくしたキャッチボール。
何もかも心地よく変わってしまった。
「……そう言えば本当にいつからの付き合いだ?」
紅蓮が首を傾げる。いかつい男がそんな仕草をしても似合わない。
何を唐突に。勾陣は肩をすくめた。
「一応発生したその時からということになるんじゃないのか」
「でも話しだしたのはもっと後じゃなかったか? 晴明に下るよりは前だったと思うが」
「覚えていないのか?」
紅蓮は首を振った。曖昧な笑顔で困ったように。
「一応、なんとなく。勾がよく俺のところにきたことは覚えている」
「……一度だけ」右手人差し指を立ててみせる。「一度だけ、お前に何か尋ねたことがあったと思うが、覚えているか?」
瞠目した彼は目線を上へ下へ右へ左へ泳がせながらしばらく考え込んだが、恐る恐るといった体で首を振った。叱られまいかとびくびくする子どものようだ。
満足げに勾陣は微笑んだ。紅蓮は不審げに眉をひそめたが何も聞いてこなかった。助かった? と、その目が告げていて面白かった。
あの日々。背中合わせで無価値な言葉を投げ続けた。返って来ないことは知っていた。まだ覚えている。覚えていようと努めたから。
一度だけ尋ねたのだ。
今この瞬間に意味はあると思うか?
彼はひとこと、「知ったことか」とだけ、言った。
「お前は覚えているのか?」
凄い記憶力だな、と感心した風に彼は言う。
に、と悪戯に微笑む。
「まさか」
「は?」
「嘘だ嘘。覚えているわけあるか。お前との思い出をそんなに大事にして何になる」
「勾。暴言」
「優しさだ」
「看板に偽りまみれだなおい」
品切れ中じゃなかったのか。忌々しげに突っ込んでくる彼を無言のまま受け流して、窓の外を指差した。
「買い物。行くんだろう?」
「付いてきてくれるのか?」
「まさか。アイスとチューハイ買ってこい。アイスはカップの奴な。箱のじゃなくてハーゲンダッツでもいいぞ」
「……あのな…………」
また、頬を引き攣らせて、彼はお茶を煽った。氷も溶け切っていたが冷たかったらしく目を閉じて何かに耐えている。ばか、と一言言い放ったが文句はなかった。余程こたえたらしい。本当にばかだ。
「なぁ騰蛇。今この瞬間に意味はあると思うか?」
紅蓮はこの日一番不審げな顔をして勾陣を見た。
「……部屋の中はそんな暑くないよな?」
「羊羹とわらび餅。追加」
「……そんなに食べるつもりなのか」
「天后とな」
「…………俺は?」
「買ってくればいいじゃないか」
紅蓮は目を閉じ、たっぷりと間を開けてから溜息と共に立ち上がった。微笑みながら手を振ってやる。
一時間もしないうちにリクエストを提げて帰ってくるだろう。
そうしたら嫌がらせ兼ねぎらいにカルピスソーダでも作ってやろうか。どんな顔をするだろう。詫びがてら夕飯の手伝いくらいはしてやろう。
意味は。
あったのだろうか。あるのだろうか。
忘れられた瞬間に。いつか忘れられる瞬間に。
ただ、彼女はこの瞬間を忘れはしない。
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