Be praying. Be praying. Be praying.
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章→昌彰が好きです。
昌章はいっさい興味ありませんが。
叶わないことが前提で、ふたりが幸せであることを心から望む、本当にささやかな恋、みたいなの。常に好きです。どのジャンルでも。
原作であんなにも見事に昌浩が章子を切りすててくれなかったら、たぶんこんなに昌←章は好きになってなかったと思います。
6/100
昌章はいっさい興味ありませんが。
叶わないことが前提で、ふたりが幸せであることを心から望む、本当にささやかな恋、みたいなの。常に好きです。どのジャンルでも。
原作であんなにも見事に昌浩が章子を切りすててくれなかったら、たぶんこんなに昌←章は好きになってなかったと思います。
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「これ、お願いできる?」
「あ、はい」
渡された二冊の本を受け取り、章子は慣れた手つきでマウスを動かす。ちらりと渡し主の顔を見て、カウンター下に常備されている、ラミネートされた紙をめくり、三年を探し出す。それからクラスに移り、もう場所も暗記済みのバーコードを読み取る。八雲比古、と書かれたバーコードだ。次いで本のバーコードも読み取り、返却期限の書かれた紙を一冊の中にはさみこんで、「どうぞ」と比古に差し出す。
その一連の様を見ていた比古は、「いつもながら」と口を開いた。
「仕事早いな。俺のやつの場所まで覚えてるんだ」
「先輩は本を借りる頻度高いので、自然と覚えますよ」
「いや、他の奴こんな早くないって。同じクラスのやつにも『ごめん出席番号何番だっけ』って聞かれるのに。……つか、よく考えたらいつ来ても章子いるよね、今とか朝とか」
「まぁ、本好きですし。予定もないですし、やることもないですし、一年ですし」
「最後の関係ある?」
会話をしながら比古は今しがた借りた本を自分の鞄の中に入れる。放課後の図書室は相も変わらず静かで居心地がいい。市立図書館のように奇妙な沈黙も流れていないのでなおさらだ。破ることが許されている静けさは緊張も苛立ちも覚えさせなくて優しい。
「そう言えば、昌浩の様子、どうでした?」
「え? いや学年違うし知らないよ。…そう言えばさっきすれ違った時は何か知らないけど考え込んでたな。何かあったの、あれ?」
「いえ、朝泣きつかれたんです。この間彰子が昌浩に何かあげたらしくて、で、そのお返し何にしようって」
比古はぱちくりと目を丸くする。「ちょっと昌浩…」と呟き、わざとらしくこめかみを押さえて溜息を吐きだしてから章子に向きなおった。
「よりによって君に言うかー?」
ここにはいない友人に心底呆れている様子の比古に、遠まわしだが心配されている当人の章子はくすくすと笑うばかりだ。
「一番喜んで欲しいんでしょう、やっぱり。ついうっかり地雷踏んでも問題ですし。私と彰子は趣味もある程度似てますからね」
「…で、アドバイスしたの?」
「そこまで恋敵に優しくはなれませんよ。取り敢えず、気持ちがこもっているのが一番、とまぁありきたりなアドバイスをしてから、最近彰子が気に入ってるっぽい店をいくつか教えておきました」
「………それ、昌浩が欲しがってた答えまんまなんじゃ…」
そうだろうな、と章子は思う。けれどきっと昌浩は、あわよくば彰子の一番欲しがっているものを聞き出せたら、くらいは思っていただろう。それは分かっていたが、敢えて答えは出さなかった。リサーチは昌浩の役目である。だが、教えた店はいかにも女の子好みの店で、中学生男子には敷居が高いかもしれない。昌浩について行かなかった点を含めてちょっとした悪あがきだ。
「ずいぶんお人よしなんだね、君は」呆れの矛先が今度は章子に向いた。
「悪いことじゃないでしょう? まぁ、諦めてばかりなのも癪なので、今度告白してみようとは思ってますが」
「…………マジ?」
「ええ、四月一日あたりに」
くすくすと笑って見せると、比古はそれ以上は何も言わなかった。
カウンターの横に無造作に積み上げられている本のうちから適当にひとつ引っ張り出して、それをぱらぱらとめくりながら「先輩、心配してくれるのは嬉しいんですけどね」と章子は言う。
「確かに私は昌浩のことが好きですけど、彰子のことも好きなんですよ。そして、ふたりが仲良くしてるのを見るのも横からちょっかい出すのも好きなんです」
昌浩が手に入ったら――想像することは確かにある。けれどその想像にはいつだって彰子が欠落していて、だからなのかもしれない、いつだって、少し気持ちが悪かった。そこにあるべきものがないという違和。その『欠けた状態』を作り出してまで、彰子の居場所を奪いとってまで彼の隣に在りたいかといえば――
「…否、よねぇ、やっぱり」
「何か言った?」
「あ、独り言なので気にしないでください」
昌浩のことが好きで、彰子のことも好きで。彼らの織りなす完成された一枚の絵を遠巻きに眺めることが、すでに章子の幸せの中には組み込まれている。捨てきれない恋心ゆえに必要以上に傷つかないための防衛策なのかもしれないが、その事実に変わりはない。
「そうそう、もちろん先輩のことも好きですよ」
「…悪いけど俺、ちゃんと同学年に好きな子いるから」
「あら、別に傷ついたりはしませんよ? 私の理想は高いので」
「俺、昌浩以下?」
不服そうな比古の呟きを聞き流しながら、章子はカウンター下に置いてある自分の鞄を見る。そこにぶら下がっている、安物のガラス細工のストラップは、研修旅行に行った際に昌浩が章子にもとくれたお土産だ。ちゃんと自分は彼の世界の中にいる。それだけで幸せなんて、自分のこの恋への酔い方も相当だろう。
諦めたりはしない。奪ったりもしない。ただ、目の前の少年と一緒に、あの自分に対して無意識に残酷なふたりと共に過ごす時間に満足してしまっているだけだ。
だけど、これくらいの妨害工作は許されるだろう。
「ねぇ先輩、ちょっと提案なんですが、今度四人でどこか遊びに出かけませんか?」
昌浩と彰子をふたりきりにする時間を削って、その分を自分のささやかな幸せに回してもらうくらいは、きっと。
「あ、はい」
渡された二冊の本を受け取り、章子は慣れた手つきでマウスを動かす。ちらりと渡し主の顔を見て、カウンター下に常備されている、ラミネートされた紙をめくり、三年を探し出す。それからクラスに移り、もう場所も暗記済みのバーコードを読み取る。八雲比古、と書かれたバーコードだ。次いで本のバーコードも読み取り、返却期限の書かれた紙を一冊の中にはさみこんで、「どうぞ」と比古に差し出す。
その一連の様を見ていた比古は、「いつもながら」と口を開いた。
「仕事早いな。俺のやつの場所まで覚えてるんだ」
「先輩は本を借りる頻度高いので、自然と覚えますよ」
「いや、他の奴こんな早くないって。同じクラスのやつにも『ごめん出席番号何番だっけ』って聞かれるのに。……つか、よく考えたらいつ来ても章子いるよね、今とか朝とか」
「まぁ、本好きですし。予定もないですし、やることもないですし、一年ですし」
「最後の関係ある?」
会話をしながら比古は今しがた借りた本を自分の鞄の中に入れる。放課後の図書室は相も変わらず静かで居心地がいい。市立図書館のように奇妙な沈黙も流れていないのでなおさらだ。破ることが許されている静けさは緊張も苛立ちも覚えさせなくて優しい。
「そう言えば、昌浩の様子、どうでした?」
「え? いや学年違うし知らないよ。…そう言えばさっきすれ違った時は何か知らないけど考え込んでたな。何かあったの、あれ?」
「いえ、朝泣きつかれたんです。この間彰子が昌浩に何かあげたらしくて、で、そのお返し何にしようって」
比古はぱちくりと目を丸くする。「ちょっと昌浩…」と呟き、わざとらしくこめかみを押さえて溜息を吐きだしてから章子に向きなおった。
「よりによって君に言うかー?」
ここにはいない友人に心底呆れている様子の比古に、遠まわしだが心配されている当人の章子はくすくすと笑うばかりだ。
「一番喜んで欲しいんでしょう、やっぱり。ついうっかり地雷踏んでも問題ですし。私と彰子は趣味もある程度似てますからね」
「…で、アドバイスしたの?」
「そこまで恋敵に優しくはなれませんよ。取り敢えず、気持ちがこもっているのが一番、とまぁありきたりなアドバイスをしてから、最近彰子が気に入ってるっぽい店をいくつか教えておきました」
「………それ、昌浩が欲しがってた答えまんまなんじゃ…」
そうだろうな、と章子は思う。けれどきっと昌浩は、あわよくば彰子の一番欲しがっているものを聞き出せたら、くらいは思っていただろう。それは分かっていたが、敢えて答えは出さなかった。リサーチは昌浩の役目である。だが、教えた店はいかにも女の子好みの店で、中学生男子には敷居が高いかもしれない。昌浩について行かなかった点を含めてちょっとした悪あがきだ。
「ずいぶんお人よしなんだね、君は」呆れの矛先が今度は章子に向いた。
「悪いことじゃないでしょう? まぁ、諦めてばかりなのも癪なので、今度告白してみようとは思ってますが」
「…………マジ?」
「ええ、四月一日あたりに」
くすくすと笑って見せると、比古はそれ以上は何も言わなかった。
カウンターの横に無造作に積み上げられている本のうちから適当にひとつ引っ張り出して、それをぱらぱらとめくりながら「先輩、心配してくれるのは嬉しいんですけどね」と章子は言う。
「確かに私は昌浩のことが好きですけど、彰子のことも好きなんですよ。そして、ふたりが仲良くしてるのを見るのも横からちょっかい出すのも好きなんです」
昌浩が手に入ったら――想像することは確かにある。けれどその想像にはいつだって彰子が欠落していて、だからなのかもしれない、いつだって、少し気持ちが悪かった。そこにあるべきものがないという違和。その『欠けた状態』を作り出してまで、彰子の居場所を奪いとってまで彼の隣に在りたいかといえば――
「…否、よねぇ、やっぱり」
「何か言った?」
「あ、独り言なので気にしないでください」
昌浩のことが好きで、彰子のことも好きで。彼らの織りなす完成された一枚の絵を遠巻きに眺めることが、すでに章子の幸せの中には組み込まれている。捨てきれない恋心ゆえに必要以上に傷つかないための防衛策なのかもしれないが、その事実に変わりはない。
「そうそう、もちろん先輩のことも好きですよ」
「…悪いけど俺、ちゃんと同学年に好きな子いるから」
「あら、別に傷ついたりはしませんよ? 私の理想は高いので」
「俺、昌浩以下?」
不服そうな比古の呟きを聞き流しながら、章子はカウンター下に置いてある自分の鞄を見る。そこにぶら下がっている、安物のガラス細工のストラップは、研修旅行に行った際に昌浩が章子にもとくれたお土産だ。ちゃんと自分は彼の世界の中にいる。それだけで幸せなんて、自分のこの恋への酔い方も相当だろう。
諦めたりはしない。奪ったりもしない。ただ、目の前の少年と一緒に、あの自分に対して無意識に残酷なふたりと共に過ごす時間に満足してしまっているだけだ。
だけど、これくらいの妨害工作は許されるだろう。
「ねぇ先輩、ちょっと提案なんですが、今度四人でどこか遊びに出かけませんか?」
昌浩と彰子をふたりきりにする時間を削って、その分を自分のささやかな幸せに回してもらうくらいは、きっと。
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