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Be praying. Be praying. Be praying.
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気のせいのように微かな光がいくつか星々の合間に流れた後、ひとつ、ぱっと華やかな光が一筋、闇の薄い夜空に描かれた。星々の輝きを奪う街灯は代わりのように煌々と空の高い闇さえ晴らす。昔にはこんなぽつりぽつりとしか光が散見しない空など想像だにしなかった。それに流星が凶兆ではなく何か特別な「いいこと」として人間に持て囃されるようになることも。
「願い事が叶う、か」
「ん、どうした?」
 傍らの紅蓮が独り言を拾って律儀に返してきた。何年経っても何が変わろうとも、どうしてだかこれは変わらない。彼と星空を眺めながら言葉を交わす無為な時間は。むしろ流星群だの月食だの、口実を見つけては互いを誘って二人この時間を保とうとする。
 いや、と勾陣は首を振った。視界の端に流れた気がしたが、そちらを見た時にはもう何もない。
「言うだろう、願い事を三回唱えると叶う、と。そんな無茶振りがどうしてこんなに人口に膾炙したのか、ふと思っただけさ」
「あー、確かに。昌浩の言葉を借りると『無理ゲー』か」
 現代っ子はよく謎の語彙を仕入れて口にする。
「よっぽど長く流れても三度は無理だな。一度…でも実際に言うのはきついだろうなー」
「よし騰蛇、試してみろ」
「何が『よし』なんだ何が」
 第一願いと言ってもな、と紅蓮は息をつく。星にまで縋りたいような切実な願いも戯れに星に託してみるようなささやかな願いもきっと持ってはいないのだ。それは勾陣も同じだった。そもそも神である自分たちは何かに願うという概念自体が人間よりも薄い。に長く人間と触れ合って相当の影響を受けた自覚があっても、だ。
「昌浩のテストの点数でも願っといてやるか?」
「本人が聞いたら怒りそうだ。というか、怒るな、確実に」
「だよなぁ」
 紅蓮はやややる気なさげに頭をがしがしと掻いた。そしてふと勾陣を見る。勾陣は、視界の隅でまた気のせいのように流れた軌跡とその場所を確認して、気のせいの気配すら夜空になくなってしまってからそれに応じた。人型を取っていても、勾陣の目ははっきりと紅蓮の表情を読み取れる。頬の力の緩んだ真顔、どこかきょとんと純粋な。妙におかしくなって思わず小さく噴いた。
「……なんだ」
「いや別に」くつ、ともう一度だけ喉を鳴らして首を傾げる。「お前こそなんだ」
「あ、いや、まあ。お前はどうなんだと言おうとしただけだ」
「私?」
「勾は何かないのか? 願い」
 勾陣は数度、瞬いた。彼の問いかけに驚いたのではない。なぜそんな、答えの決まりきったことを聞いてくるのか分からなかったからだ。猫だか鳥だか分からない声が草むらから上がる。ふと、そうか知らないのか、と思い至った。騰蛇は私の願いなど知らなかったのだ。そうか、と彼女はただ納得した。その事実はいまさら彼女を傷つけなかった。
 勾陣はわざと大げさに肩をすくめてみせた。そして意識して綺麗に微笑んで。
「ああ、いいんだ」

 願いは、あった。ずっと昔に。

 ……もしも、願っていいのなら。もしも願いが叶うなら。
 あの孤独な男が救われるように。
 罪を忘れることなく、けれど彼が前を向けるような、そんな誰かが彼の前に現れるように。
 その誰かは、私でなくて構わないから。

 あの時流れ星が凶兆ではなくて願いを託すものだったとしたら、もしかしたら勾陣も口ずさんで祈ったのかもしれない。ああでも、少し長すぎて、流れ切る前に言えそうにないか。

「私の一番の願いは、千年前に叶ったから。だからもういいんだ」

 途端に紅蓮が胡乱な顔をする。顰められた眉が眉間に浅く皺を刻んでいる。勾陣はついと手を伸ばして、指先で彼の眉間をぐるぐる伸ばした。問いかけのために開かれた口が抗議を上げる。
「あ、こら、勾、何を」
「間抜け面。お前には教えてやるものか」
 何も知らないお前なんかには。
 それでも疑問を払拭できずに勾陣を見やる紅蓮の視線を、それきりすべて無視して仰向いた。紅蓮がもう一度口を開きそうな気配を感じて、星の瞬く隙間に「あ」と声を上げる。流れたものは気のせいを通り越して幻だ。流れたか? と紅蓮が言った。かもしれない、とだけ答えた。嘘ではない。見えない程度の流れ星があったかもしれない。流星群の日は誤魔化すのが楽でいいな、と、彼女はそんなことを思った。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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