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『僕がずっと前から思ってたことを話そうか』




天ノ弱を聞いててなんとなく浮かんだものを授業の合間の空き時間に書いてたら崩壊した気もするけどまあってことで←
私の辞書にボツという言葉はない

ただし書くこともせずに忘れてった話ならたぶんいっぱいある
ちなみに私が○○してて浮かんだ話というのは往々にして○○から離れていきます

「同胞に戻れたらと、思うことがある」
 女の声はくらげのようにふわふわと、それでいて静かに、そして日陰でいつまでも溶け残った雪のように、沈んでいた。お前に言うのは間違っているかな、と勾陣は薄く笑う。紅蓮は黙したまま彼女を見つめた。勾陣は明らかに感情を持て余していて、それはとても珍しいことだけれど、その分余計に彼女の内が透明に見えてしまっていた。
 勾陣を満たし、そしてまた紅蓮を満たし、互いに幸福を分け合うための関係が、時として彼女に研ぎ澄ました切っ先で触れていることを紅蓮は知っていた。紅蓮には勾陣の心がいまどんな姿かたちをしているのかなど見えないけれど、彼女の中で渦巻いている言葉だけは見えていた。
「矛盾しているとわかっているよ。もしもお前が私を何よりも優先したとしたら、私はきっと、お前を軽蔑するだろう」
 だが、と続いた彼女の声は、紅蓮が読みとっていた言葉をそのままなぞった。
「お前が私を見ない、私など気にかけない一瞬、私と向き合っているときでさえ私はお前の唯一になれないと思う一瞬、…その積み重ねが、時折、……苦しく、なる」
 最後だけ、絞り出すように、囁くように小さな声だった。勾陣は内心を晒け出すことを恐れているかと思うほどに嫌うから、それ自体は何の不思議もなかったが、紅蓮にはどうしようもなく痛々しかった。くだらないと一笑に付した方が彼女は救われるのかもしれないが、彼にも、おそらく程度の差こそあれ、覚えのある感情――忍び寄っては夢より曖昧に去来してひたすらにひたすらに腹の底へ沈殿し鼓動を寒々しくさせる、一般的には疎外感とか孤独感とか、そう呼ばれるもの――だ。そして勾陣がそれを分かっていないはずもなく、私だけはお前に言える道理はないのだろうな、とまた笑う。紅蓮はわずかに眉根を寄せた。彼は彼女の笑顔が好きだが、誤魔化すように戸惑うように子供のように耐えるように浮かべるおよそ勾陣らしくもない笑みだけは嫌いだった。
 紅蓮はゆったりとかすかな音を立てることもなく息を吐き出すと、彼女のための嘘をつく。
「――お前がそれでいいと言うなら、俺だってそれで構わない」
 そんなわけはないのだ。焦がれて焦がれてやっと手に入れた女を、どうして自ら手放せようか。勾陣から貰った両腕に溢れるほどのありとあらゆる愛情をどこに捨てればいい? 勾陣に贈る両腕に溢れるほどのありとあらゆる愛情をまた誰に譲ればいい? そんな宛てが存在するはずもなく、だから優しさで表層を塗り固めた紅蓮の言葉はその実優しくもないただの嘘にすぎない。
 勾陣は軽く目を伏せ、長い睫毛が小さく震えると、ゆっくりと首を振った。紅蓮は安堵すらしなかった。彼女が頷かないことは予想できていて、……いや、分かっていたからこそ、あの嘘が言葉になった。俺だってそれで構わない、そんなはずがない、もしも彼女が紅蓮の嘘を呑み込んでしまったならば紅蓮はきっとみっともなく言を翻してなりふり構わず細い体を拘束しただろう。紅蓮は勾陣が彼の言葉を受け取らない限りにおいて勾陣にとって誰より優しい男でいられる。勾陣が内包する矛盾などより遙かにひどい矛盾を紅蓮は内包し、そして受容する。それゆえに、彼は勾陣のようには揺れない。それは果たして強さと呼ばれるべきものなのか否か、紅蓮自身にも分からないが。
「無理だな。たぶん、厳密には、同胞に戻る、では、まだ足りないんだ。いっそ嫌えないと意味がない」
「それなら」
 紅蓮は緩慢に右手を伸ばすと、肉の薄い肩に触れる。努めて無表情を張り付ける男が、彼を静かに見つめ返す双眸の奥に映っていた。
「たとえば、……たとえばいま、お前を犯したとしたら、お前は俺を嫌えるか?」
 反吐がでそうな戯言さえ、嘘だ。
 そして彼女は紅蓮の想像通りにまた彼の言を否定する。
「それも無理だな。そんなことを言っている時点で、それは私のための行動になる。それでは駄目だ」
 勾陣はふっと表情の色を明るくした。赤い唇がゆるやかな弧を描く。紅蓮は瞬きを繰り返しながら微笑み返す。これはまだ、紅蓮が好きな側の表情だった。
「ただの、一過性の感情だ。八つ当たりがてらにお前を傷つけてみたくなっただけだよ」
 それでお前がどんな顔をするのか見てみたくなった、と彼女は大げさに肩をすくめてうそぶく。そして傷つかなかった紅蓮を、それはそれでよかった、と彼女は評した。勾陣が唐突に投げかけた言葉が本心からの嘘であることさえ紅蓮には見えていたから、傷つきようがなかったのだった。もしもあれが彼女の真実の願いであるとしたならば、それこそ紅蓮はどんな暴挙に出たか知れたものではない。
 紅蓮はゆっくりと、女の頬に触れた。きめ細やかな感触がとても気持ちいい。白い手が柔らかく重なると、彼はこの会話の中におけるはじめてのほんとうを口にする。
「俺は、いくらでも待つ」
 かつて彼女が紅蓮にくれた言葉、見捨てずにいてくれたこと、当然のように傍らにいてくれたこと、それらに比べれば彼女の中でぐるぐると渦巻くものがほぐれるまで待つくらい何のことではないのだ。言葉の裏のそのまた裏まできちんと見えて掬い上げれるようになるまで、いくらでも待とう。
「勾が分からないと言うなら、分かるまで。混乱しているというなら、落ち着くまで。お前がもういいと言うまで、俺は待ってる」
 ――その結果彼女が導いた答えがいかなるものであっても受け入れるとは、傲慢な我儘と鎌首をもたげる弱虫のせいでとても言えそうにないけれども。
 彼女は少し、目を見張って、そしてひとつ、躊躇いの消えない吐息を零した。
「……それから、ひとつ、お前は間違っている」
「何?」
 紅蓮はほんの一瞬浮かべる表情の選択に迷い、結局ひょいとおどけた風に笑ってみせた。
「お前は確かに俺の第一じゃない、だが、唯一ではあるんだ」
 お前の代わりはいないし、いらない。
 女は満たされた様子で、少しだけほろ苦そうに、そうか、と言った。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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・紅勾、青后、勾+后(@少年陰陽師)

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