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Be praying. Be praying. Be praying.
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もういいと捨てるふりをして、苦しいくせに満たされている。





学校にいて授業と授業の間の空いた時間にぽちぽち書いた奴。紅勾。
こないだの大学生パロの続き。
とりあえず紅蓮がんばれ、さっさと腹くくれ。

暇な時間はゲームすればいいじゃんと自分でも思うんですが、暇つぶしにゲームしだすと潰れるのが暇どころじゃなくなる自信もあるんで基本ゲームは学校では封印なのです。

 二時間連続授業の休み時間は、大学生といえ高校までの休み時間とさして変わらないざわめきと気だるさが蔓延している。今いる教室が、高校までと同じ机と椅子を使っているというのもあるだろう。違うのは携帯電話・ゲーム・飲食等自由であることくらいだろうか。狭い机の上に散らばったレジュメや参考資料を整理しながら、慧斗は「なあ」と隣でペットボトルのアップルティーに口を付けていた天后にふと尋ねかけた。
「私は紅蓮に何かしたかと思うか?」
 先の授業中可能な限り最近の出来事を思い返してみたのだが、どうにも心当たりはない。ないが、紅蓮の様子を考えるとその線がもっとも濃厚だ。
 最近紅蓮が妙によそよそしい。と言うよりは、自分を避けているような感じだ。飲みに誘っても宅飲みなら確実に断られるし、出かけに誘っても諾の返事に歯切れが悪く、二人で話しているときもどこか慧斗の扱いに戸惑っているように見受けられる。第三者が同じ輪の中にいる場合は普段通り、今まで通りなのだが、空間をふたりのものに切り取った瞬間から紅蓮の挙動不審が浮き彫りになるのだ。指折り数えなければ何年の付き合いなのかすぐには思い出せないほどの紅蓮との関わりの中でこのようなことは一切なく、だから慧斗は困惑していた。
「何かって」蓋を閉めながら困ったように天后は言う。「……一般的に言えば、いっそありすぎて心当たりがなくなるくらいにはいろいろしてない?」
 思いもよらぬ答えに慧斗は何度か瞬いた。それは確かにそうかもしれないと認められる程度の自覚は慧斗も持っている。
「……だが、一応、程度は考えているんだが」
 傷つけない程度に。不愉快にならない程度に。冗談で終わる程度に。――嫌われない程度に。
「うん、だから、一般的に言えば。私から見てもあの人貴方に何かされても嫌がってないわよ」
 M気質ってああいうののこと言うのかしらねと天后は真面目な顔で容赦のない言葉を紡いでいく。天后は紅蓮に対する一切の気遣いその他を自ら放棄しているかのようで、天后自身も彼のことは気に食わないと言ってはばからないが、慧斗から見れば仲はそんなに悪くない。紅蓮が罵倒上等な友人関係をいくつか築いているので相対的にまだましに思える程度、ではあるが。何も知らない人間が見たら間違いなく不仲に見えるだろう。
「どうしたの?」天后は小さく首を傾げる。「喧嘩でもした?」
「いや、特には」
「でも、あっちは何か様子がおかしいわよ」
「ああ、だから、私は自覚なしに何かしたかな、と」
 天后は不可解そうに少し目を伏せ、口許に指を当てて、慧斗に視線を戻して首を振った。
「私が知る限り、慧斗は何もしてないと思う」
「そうか」
 高校までのクラスではあるまいし、天后に心当たりがないのは当然なのだが、それでも慧斗は少し安堵した。そしてほっと息を吐いた自分を笑う。
 慧斗は紅蓮をからかうのが好きだ。必死になって反論してくるのも、苦い顔で撃沈しているのも、いろいろ通り越して乾いた笑いをこぼしているのも、何度見ても飽きないくらい面白い。だがそれでも、彼をほんとうに傷つけてしまうのは本意ではないから、持ち前の洞察眼をフルに駆使して踏み込んではいけないラインには近づいてもいないつもりだった。失敗したことはないと思っていたのだが、それはあくまで「つもり」の話で、事実がどうかなんてそれこそ紅蓮しか分からない。そして紅蓮から避けられて初めて不安がる自分がいっそ滑稽でならなかった。
「…逆はないの? 慧斗が何かしたんじゃなくて、むしろ何かされたとか。それを気にして、とかは?」
「……心当たりはない、し、…正直あいつが私に何かできるとは思えないな」
「それは確かに」
 あっさり慧斗の言を認めるあたりほんとうに天后は紅蓮に容赦ない。いっそすがすがしくて気持ちいいほどだ。フォローくらいしてやったらどうだ、と慧斗が突っ込むと、天后は事実だしフォローのしようがないわよ、と笑った。
「あとは、それなら…貴方のこと意識して、それで変なことになってるとか」
 天后が上げてみせた思いも寄らぬ選択肢に、何度も徒労を味わった心が性懲りもなく跳ねて期待の火を宿す。だが、自ら砂をかけて無惨に埋めることを、慧斗はもうしばらく前から覚えていた。
「まさか」
 口を突いた否定は反射そのものだった。口調は驚愕よりも嘲笑に近い。何度もいらぬ希望を抱いては自分勝手に裏切られ続けた、それは傷ではなく喜劇の後の夢想感に似ている。
「――まさか、そんなことはないだろう。紅蓮と私はただの幼馴染で腐れ縁だ。そんなこと、天后だってよく知っているだろうに」
「慧斗、それは――」
 言いかけた天后の言葉を遮って、マイクを通した教授の言葉が教室に響く。はいじゃあ二限目を始めます。それを合図に慧斗は机に転がしていたシャーペンを手に取り、軽く肩をすくめて天后に話は終わりとの意を示した。レジュメの内容はプロジェクターで教室前方に映し出されていて、わざわざメモを取る必要性は薄い。物言いたげな視線をやんわりと拒絶する慧斗の耳に、吐息のような声が届いた。それは、たぶん、違うと思う。
 違わないよ、と慧斗はささやいた。
 少しでも違うなら、きっと、どうせなら恋人を作ったらどうだ祝ってやるぞ、なんてことは言われない。
 幼馴染で腐れ縁。一点の曇りもない事実である。ただ慧斗が一方的に、その関係性には相応しくない感情を抱いているだけの話であって。
 いつからか、親友の天后とはまた別に、違う次元で、紅蓮は彼女の特別だった。他愛ない会話を重ねることは無垢な喜びで、二人で何かをすることが至上の幸福だった。それが恋愛感情だと気づかぬほど慧斗は鈍くはなかった。
 紅蓮は慧斗のことなど何とも思っていないようだったが、慧斗はそれでいいと思った。紅蓮は慧斗を女扱いしなかったが、代わりに特別扱いした。よく喋り、よく笑い、よく本心を晒し、時に叱り、時に苦言を呈し、そして常に優しい。クラスやサークルの人間に向ける人の良さとは確実に一線を異にする、慧斗が好んだ優しさや寛容を、紅蓮は惜しげなく慧斗に向けた。独占できていた、とは言わない。だが、それだけで充分に慧斗は満たされていた。自分がそれっぽっちのことで満足できるほど殊勝な人間であることを、慧斗は初めて知ったのだった。
 それでも、やはり彼が欲しかった。待つばかりではなかった、幾度となくそれとなしに探りを入れ、幾度となく誤魔化せるぎりぎりのラインの好意を晒した。けれど、何をやっても紅蓮は「幼馴染」の枠から出てきてくれなかった。勝手に期待し、勝手に落胆し、それをひたすらに、馬鹿みたいに繰り返し――諦めることに決めた。望むからいけないのだ。もしかしたら、なんて思うことが間違っているのだ。一切の脈がない相手に突撃して無碍に撃沈するよりは、怠惰に縁の寿命をむさぼり、もうすぐにでも途切れてしまうその瞬間に賭けに出る方がいろいろとましのはずだ。
 しかしその考えすらも、どうやら身勝手な理屈を十二分にはらんでいたらしい。
 紅蓮の様子がどこかおかしい。何かした覚えはないし何かされた覚えもない。いまさら意識されるなんてありえない。そうやってひとつひとつ埋めていった選択肢が、まだもう一つだけ残っている。――好きな相手ができたのか。
 充分にあり得ることだ。どころか、他の可能性に比べても正解の確率が高い。ならばさぞかし慧斗の存在は邪魔なことだろう。嫌味やひねくれではない、冷静に考えて、いくらただの女友達とはいえ一緒に遊びに行ったり飲みに行ったりが普通な女は本命の前では間接的な障害だ。そんなことを気にしない人間も世の中にはそれなりに多くいるのだろうが――紅蓮はああ見えて細やかな性格だ。不器用だけれど、それを自覚して、その分念入りに気を回す。言葉にするのが苦手で、補うように行動を起こす。慧斗はそれを知っている。よく知っている。だってそれらは、今まで紅蓮が慧斗にくれていた特別扱いだ。
 諦めたはずだった。望むことも、期待することすら。そしてゆっくりと自然消滅の日まで彼との関係をだらだらと食いつぶしていけばそれでいいかと。そこに、他の誰かに奪われるなんて可能性はなかった。諦めたはずがひどい自惚れだ。慧斗が選ばれないなら他の誰も選ばれないだろうと、きっとこの世界に類を見ないほどの身勝手な理屈。加えていざ裸に剥かれてみればもやもやと飲み下せない醜い感情の渦にほんとうはわずかも諦めていないことを知る。
 それなら自分から手を伸ばしてみようか。自滅覚悟の勇気の前に、しかし過去の紅蓮が立ちはだかる。慧斗の好意に気づかない彼。友人の立ち位置を頑なに崩さない彼。もしも慧斗に相手が出来たら祝うと言った彼。何をしたところで俺には届かないと、すべての彼が口を揃えて言う。
 いっそあいつが女に興味がなければいいのに、性癖の壁の前にはさすがに諦めもつくのにと、極まるところまで極まった後ろ向きの願いが瞼の裏に去来する有様だった。

 授業後天后を昼食に誘うも、クラ代があるからと断られた。一人で食べるのは少々味気ないが仕方ないと食堂へ向かう。混む前に鞄で席取りをしてから財布だけ持ってトレーを取りに行く、と、まだそこまで人のいない中で(人混みの中でも、だが)目を引く長身の赤髪がいた。染めた不透明な赤ではない、ウィッグの不自然な赤でもない、海に溶ける深い深い夕暮れの色によく似た赤は、彼女がもっとも好む色のうちのひとつだ。本人はあまり気に入っていないようだが、慧斗のお気に入りと知ってからは居心地悪そうにしながらも満更でもなさそうな様子である。もちろん、ただの自惚れかもしれないけれど。
 紅蓮はまだ慧斗に気づかない。紅蓮と呼びかけようとして、先の授業時間中ぐるぐると考えていた様々な感情が一瞬のどを塞いだ。ついでとばかりに心臓をつつかれる。肺の中身と一緒にそれらすべてを追い出すように深く息を吐き出すと再び口を開く。今度はうまく音になった。
「紅蓮」
 紅蓮はおあ、だかうお、だかよく分からない、声と言うより鳴き声に近い声を上げながら振り返る。どこから出した今の声、と突っ込みながら、慧斗はちゃっかり彼の後ろを確保した。まだ列も出来ていないし、たぶんセーフだ。
「いきなり声をかけるな、心臓に悪い」
「いきなり以外にどうかければいいんだ、今から声をかけると声をかければいいのか」
「…あのな、そういうことじゃなくてな……」
 それきり反論を諦めた紅蓮は小さく息を吐いて親子丼を取った。やや苦い表情にしかし不機嫌の色はないことを横目で確かめてから、慧斗もカレーを頼む。先に会計を終わらせた紅蓮は慧斗のことを待っていてくれた。幸運なことに慧斗の取った席の隣は空いているままだった。紅蓮はその席に昼食を置くなりすぐに二人分のお茶を汲んでくる。彼は何気なく濃い方のお茶を慧斗に渡した。食堂の給湯機は連続で茶を汲むと如実に濃さに差が出て、運が悪いとほとんど白湯状態になることがある。
「ありがとう」
「いや」
 熱いお茶は一口飲むだけで身体の内部を心地よく震わせる。と、視線を感じて慧斗は横を向いた。
「なんだ?」
 紅蓮はしげしげと慧斗を眺めて(見て、と言うよりはもっと注意深く)いて、彼女は奇妙な居心地の悪さを味わった。心臓は少しだけ跳ねたが、いい加減慣れたものでもう一口お茶を流し込むだけですぐに落ち着く。それでも、太股のあたりに痺れに似た浮遊感は残った。
「……いや、こんなに細かったかなと思って。もう少し太っても大丈夫なんじゃないかお前」
「紅蓮、それはセクハラだ」
 俺とお前の関係でいまさらセクハラも何もあるか。笑い混じりにそんな言葉が返ってくるとばかり予想したが、紅蓮は慧斗の指摘に分かりやすく焦った。やはり変だ、と慧斗はわずかに眉を寄せる。自分と紅蓮の関係はどちらかというと男同士の友人関係に近く、この程度の軽口は日常茶飯時なのに。
「悪い、失言だ。忘れてくれ」
 少なくともこんな謝罪が返ってはこなかったはずだ。今の紅蓮は慧斗を間違いなく女扱いしていて、それは気楽な幼馴染という特別扱いから格上げされたのか格下げされたのか慧斗には判断がつかない。期待をひっかけておける余地であるような気もするし、それ以上に不安が的中した裏付けであるような気もした。
 ――賞賛されるべき彼女の洞察眼は、しかし彼との関係においては長年降り積もった空振りの片思いに無数の小さなささくれで透明感を損なっており、だから素直に一般的に考えれば即座にたどり着くはずの答えを自らあり得ないと拒絶してさらに白く濁る。
 慧斗を窺う紅蓮の蜂蜜色に、彼女は微笑むしかなかった。
「いいよ。だいたい、この程度に目くじらをたてる関係でもないだろう」
 彼女がまったく怒っていないことを確認した紅蓮はあからさまに安堵した様子でもう一度「悪かった」と言った。だから謝らなくてもいいのにと息を吐き、軽く手を空わせてからスプーンを手に取る。昼休みは長いようで意外に短いのだ。
「俺が言うのもあれだが」
「ん?」
「意外だ。もっと何か突っ込まれると思っていた」
「…………お前の中の私は何なんだ?」
「…………自覚ないのか?」
 物言いたげな声を食堂内の喧騒を言い訳に無視する。紅蓮はそれ以上何も言ってこないしため息も吐かなかった。
 自覚がないどころではない。紅蓮に対する人を食ったような言動のひとつひとつはきちんと理性のコントロール下にあるし、それに対する紅蓮の感情から自らの行動の動機に至るまで慧斗にはすべて明瞭に見えている。傷つけない程度に。不愉快にならない程度に。冗談で終わる程度に。――嫌われない程度に。常にそのラインを窺い、ふと失敗しなかったか不安に思う。わざわざそんなばかな真似を続けるのは、昔からそんな関係を築いていたから今更変えようがないという理由もある。もっともらしい理由を隠れ蓑に、しかし真意は違っていた。何のことはない、特別扱いが欲しいのだ。慧斗でなければ紅蓮だって気分を害すだろう程度の我儘、茶化し。それらを案の定紅蓮が困ったように少し苦く笑いながら受け入れるたび、彼女はそこに紅蓮が自分にくれる特別扱いの輪郭を見る。そうして慧斗が手にするのは誰に対するでもない優越感だ。ほら、ほらこんなに私と紅蓮は近いんだぞ、と。
 隣の彼を見る。日本人離れした容貌を、彼女は奇異に思ったことも怖いと思ったこともない。どころか、綺麗だと思う。透明に揺らぐ夕暮れを切り取った色の髪も、光を弾く柔らかな蜂蜜色の瞳も、夏の香りを想起させる褐色の肌も。精悍な顔立ちとしっかりした体躯とは裏腹に情が深く寛大で、慧斗はたまに頼りないなと軽口を叩くけどほんとうは全然そんなことはない。慧斗と紅蓮は他学科だが、体育などで同じ種目を選んだらしい女子がいろいろ言っているのを耳にしたことがあるし、さぞ人気も高いことだろう。本人はまったく無自覚のようだが。
「なんだ?」
 視線に気づいた紅蓮が不審そうに聞いてくる。
 あの日、もう昔の話。容姿のせいでどこか遠巻きにされていた幼い日の彼を思い出した。彼の纏っていた空気はよく研ぎ澄まされた冬の日の刃みたいで、慧斗はそれに興味をひかれてならなかった。どんな奴なんだろう、話をしてみたいなと。実際に話してみたら不器用で自分やほかの子と何も変わらないただの子供で、慧斗は無性にわくわくしたものだった。この彼は自分が最初に見つけた彼なんだと思った。
 時が経ってこんなに面倒くさい恋を持て余す羽目になると知っていたら、あの時紅蓮に声をかけただろうか。
 ――たぶん、知っていても、同じように手を伸ばしたのだろう。そんな気がする。
 救われないなと呟いた唇に、しかし悲壮感などなかった。どこか満ち足りて、誇らしくさえ感じていた。救われないのはどちらかと言うと悲しくならない心の方だったが、慧斗はそれも構わないかなと思った。だって少なくともいま紅蓮は慧斗を見ている。その理由がただの友情だとしても。
 なんでもないよと慧斗は言った。わずかでも紅蓮に刻み込まれるよう、精一杯に美しく微笑みながら。

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碧波 琉(あおば りゅう)
少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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・紅勾、青后、勾+后(@少年陰陽師)

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