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Be praying. Be praying. Be praying.
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ちょっと文章が書きたくなったけど現在孫の残弾が尽きてるので。

 水掛け祭り。
 この世界中のあらゆる集落において、最も尊い祭りである。瘴気を阻み自分たちを護ってくれるクリスタルに感謝し、一年というリミットのなかミルラの雫を集めたクリスタル・キャラバンを労い、約束された次の一年間を祝う。夜通し、クリスタルの周辺で踊り、また村中の家から持ち寄られた御馳走に舌鼓を打ち、キャラバンが冒険談を語り――他の村や街がどうなのかは知らない。ただフェンリルの村において水掛け祭りとは上記のような意味を持つ。
 祭りの主役はクリスタル・キャラバンだ。大人たちはまた一年頑張ってくれやと彼らの背を叩き、子どもたちは彼らの話を聞きたがり、同年代の者たちは共に踊り明かす。それが普通、なの、だが。
「ガン・ヌー。お前んちの妹どこよ?」
 にじいろブドウの果実酒片手に声をかけてきたのは武器屋の長男・ラムゼイだ。下戸ではないが酒に強くないくせしてやたら好きな男なので水掛け祭りが終わったときにはそのへんで潰れている。
「そっちこそ。弟どうしたんだよ」
「知らん。フィ・リと一緒だと思ったんだが、ミュウもひっくるめてキャラバン全員広場にいないし。奴らフケたか? 主役不在で勝手に盛り上がってるぞ俺ら」
「いいんじゃねぇか? 別にさ。どっちかっつーと主役なんだったらむしろ勝手にさせてやった方が。……それに、ほら」
 声をひそめたガン・ヌにつられ、ラムゼイも真剣な面持ちになった。
「『二年目』だぜ、今年」
「……ああ」
 何かを了解したラムゼイの声がすとんと静かに響く。
「そっか、なら仕方ないな」
「ああ、しゃーないわ」
 ところで飲もうぜ食おうぜ。ラムゼイに促されて、てめーはもうちょっと自分の限界に合わせろ馬鹿、親父さんに迷惑かけんな、と小突きながら酒に手を伸ばす。
「へーきへーき。どうせ親父もそのへんで潰れるもん」
「その悪癖遺伝かよ、救えねえな!」
 軽口をたたいて酒を流し入れる。軽い酒は味のする水みたいな感じがして、強くない酩酊感を喉の奥で転がしながら彼は妹たちを想った。
 きっと岬で海を見ている。妹はあの場所がたいそう気に入っていた。ゼクスもミュウも見当たらないのなら妹と一緒にあそこでだらだらと――辛い記憶を、昇華している。
 フェンリルの村のキャラバンたちにとって、最も辛い年は、間違いなく常に二年目だ。

 村のキャラバンがたどるコースと言うものは大抵決まっている。最初は近く、だんだん遠く。どこの集落でもそんなものだろう。素材を求めて走り回っているマール峠のキャラバンくらいは例外かもしれないが。
 フェンリルキャラバンのコースは、一年目にリバーベル街道、キノコの森、カトゥリゲス鉱山。二年目にゴブリンの壁、ティダの村、ジャック・モキートの館である。村からの距離はリバーベルの次に壁が近いが、棲みついている魔物が厄介なので後回しにすること、と代替わりのたびによくよく言い含められているはずだ。後は代々のキャラバンそれぞれが適当に決めている。三年目にもなれば多少の不測事態に対応できるキャリアも積んでいるし戦力も力強くなっているため自由意思に任されている。
 二年目。まずゴブリンの壁で死にかける。ジャック・モキートの館で自分たちの身勝手な正義を突き付けられ、ティダの村で間に合わなかった未来を目の前に押し付けられる。
 ほんとにやってらんないよ。ゴブリンの壁でさ、マジ死にかけるの。ゴブリンのくせに奴ら統率取れてるしつえーんだよ。でさ、そこでミルラの雫ゲットして、よし次って思うじゃん。したら次、ジャック・モキートの館、あそこやばいよ。もう生活体系が完璧に人間。モキートの主人にラミアの奥さん、召使いのトンベリコックと、クァールはペット? んでさ、お邪魔しますも言わずに、こっち勝手に押し入って、使用人とかペットとか殺してんだぜ。怒るよな、そりゃ怒るよ。でも、こっちも雫取らなきゃしょうがないから戦うじゃん。その後思うんだよ、よくよく考えたら悪者、完璧こっちじゃんって。で、凹みながらまぁアルフィタリアで休んで、最後ティダの村。ここ最悪。村がさ、まだ村なんだよ。人が住んでた後、ちゃんと残ってんだ。何十年も前に瘴気に呑まれたくせに。もうただのダンジョンになってるくせに。家とか、クリスタルの台座とか、そのまんまなんだよ。んで、そこにキノコが糸はいてたり魔物が棲みついてたりしてさ。道も何かねばねばしてんの。んで、思うわけよ。あぁ俺たちが間に合わなかったらこれはそっくりそのまんまフェンリルの村になるんだって。しかも、後でティダの村のキャラバンは死んだわけじゃなくてただ間に合わなかっただけだってアルフィタリアで聞いたんだ。目の前、真っ暗だよ。一瞬で自分に置き変わるんだ。みーんな死んで、クリスタルもなくなって、帰る場所なんてあるわけなくて、でも自分たち無事で、ゲージにはミルラの雫満タンなんだぜ? もう、死にたいよ。想像しただけで。あの年は、村につくまで気が休まらなかった。盗賊団に少々のもの取られたところで怒る気力もわかなくて、村が見えた瞬間、皆泣きだすの。へたりこんで。村までもうどれぐらいもかからないってとこで、馬車停車。あぁ帰って来たって。ちゃんと帰って来れたって。死にかけても間違ったことしてるかもしれなくても、でも帰って来たんだって。でも、帰ってくるためには間違ったことしないといけないって思うと、もう何にも分からなくなるんだ。
 考えたらフェンリルって立地最悪だよな、旅の途中でふらっと帰るのも難しいし。そう言って誤魔化すように話をまとめたのは、一世代前、ガン・ヌの代のキャラバンメンバーだった。ガン・ヌはキャラバンではなかったから、彼らの話を聞きながら、わざと明るくしているのがばればれな声音を聞きながら、キャラバンの過酷さを垣間見た。キャラバンに選ばれるのは栄誉なこと、世界を旅できる幸運なこと――そう純粋に信じていたガン・ヌは、二年目にキャラバンが帰って来たとき選ばれなかったものの傲岸な想像を知ったのだ。
 ひと月ほど前、クリスタル・ゲージに雫をたっぷりと湛えてキャラバンが帰還を果たした。村人に迎え入れられ背を叩かれてくすぐったそうに笑っていた妹は、帰って来たその夜、ガン・ヌの部屋に無理矢理入ってきてわあわあ泣いた。いつか同世代のキャラバンメンバーが言っていたことを似たようなことを口にして。
 フィ・リは誇り高い少女だった。妹はもちろん両親にも弱みや崩れたところを見られることを嫌っていた妹がキャラバンメンバーにそれを許している道理もなく、彼女がすがりつける人間と言うのは兄であるガン・ヌ以外に存在しない。妹は頼られることが好きで、護ってやることが好きで、みっともない姿を見られることが何より大嫌いだ。
「なんでミュウやゼクスに泣きつかないかなぁ」
 ぽつりと呟いて思い切り噛みつかれたのは記憶に新しい。
「しょうがないじゃん、あいつら先に凹むんだもん! 先に泣くんだもん! 泣くに泣けないじゃん、あたしがしっかりしなきゃしょうがないじゃん! あたしが、あたしだけでもしっかりしないと、フェンリルキャラバン纏めて使い物になんなくなるの目に見えてたから! そのくせ言うんだ、何でフィーは平気な顔してるのって――んなわけないよ、しっかりしてくれてたら泣いたさ! でも怒れもしないんだ、だって分かるんだもん、あの二人の気持ち痛いくらいに分かっちゃうんだもん!」
 ああ、どれだけ――どれだけ溜めこんだんだこいつは。まだたった16歳で研究だってひとりでは大したこともできなくて、村に残った奴らは家業を手伝いながらまだ気ままに遊んでいる年齢で、その小さな肩にどれだけ重いものを背負って尊い使命を果たしているんだろう。吊り目がちの丸い碧眼をいっぱいに濡らして泣く彼女に、ガン・ヌは曖昧な相槌を打ってやることしか出来なかった。かけてやれる言葉はクリスタル・キャラバン経験のないガン・ヌが口に出来るものではなくて、頭を撫でてやることも、格好悪さや気恥ずかしさが先行して手は動いてくれなかった。
 けれどもフィ・リは向こう数年のキャラバンだった。だから結局村人たちは妹たちに「頑張れよ」としか言えない。辛かったら止めていいよとは言えない。たとえ他にキャラバン志望の若者がいても、キャラバンの仕事は一度選ばれた者たちだけの使命であるからだ。そして無理をするなよとも言えない。だって結局、無理をしてでも雫を持ち帰ってもらえないと自分たちは生きていけないから。

 だんだん悪酔いし始めたラムゼイから逃げ出したガン・ヌは岬の方からこちらへ向かってくる三人組みを見つけて、お、と言った。妹たち――キャラバンメンバーだ。
「ガン・ヌさん!」
 真っ先に声を張り上げたのは天真爛漫を絵にかいたようなクラヴァットの少女だ。手を上げて答えると近くまで来た妹が眉をひそめた。
「ガン兄、酒臭い」
「ラムゼイよりましだぜ、あいつそろそろぐでぐでだから」
 げ、とラムゼイの弟、ゼクスが顔を歪める。
「あーあーあー、兄さん今年もかよ…。捕まると絶対説教くるんだよなぁ、やだなぁ。しかも説教とはいえ完全にマイワールドの中の話しかしなくなるもんなぁ」
 酒癖の悪い家族に悩まされるのはいつだって他の家族である。
「楽団の後ろのへんにいるだろうから近寄らないこったな。気分転換しろよ、……また一年、頑張ってもらわなきゃいけないんだからな」
 頑張れ。ガン・ヌにはそれしか言えない。ラムゼイにも。ミュウの姉・ミンティにも。両親にも弟妹にも、村人たち全員が。キャラバン経験のある大人たちと村長夫妻を除いて全員が。
「さっき、来年どこ行こうって話してたんですよ」
「瘴気ストリームの関係もあるし、取り敢えずヴェオ・ル水門とセレパティオン洞窟とデーモンズ・コートかなぁって。……最後の、すっごく気が乗らないけど」
「そのうち火山とか砂漠とか湿原とか、ダンジョン以前に環境がやばいとこ行かなきゃいけないから、ぶーぶー言うのもお門違いだけど」
「……フィーのそういう大人ぶったとこ嫌い」
「あっそ。安心しなさい、あたしもあんたの天然なとこに苛々するから」
「まあまあ。まあまあ」
 やり取りを見ながらガン・ヌは笑いを押し殺した。何気なくキツいことを言うフィ・リ、それにミュウが噛みついて売り言葉に買い言葉でフィ・リが応戦、ゼクスが仲裁。クラヴァット二人の中たったひとり放り込まれたセルキーが上手くやっているのか去年は不安だったが、何だかんだでかなり馴染んでいる。
「ま、飲めや食えや。年に一度の祭りだ」
「ガン兄が作ったわけでもないのに偉そうに」
「なにおぅ? 俺だって作った料理があるからな、今年」
「……どれ? 食べないようにする」
「おい」
 抗議の意味で軽く小突くが避けられた。
 祭りの中心地帯へ仲良く遠ざかる三つの背中を見送りながら、ガン・ヌはすっと目を細め、先ほどの酒より強いものを煽った。唇がひりひりする。
 あの背が。自分よりよっぽど小さいあの背が。あの肩が。まだまだ子どもの三人組が。ガン・ヌには生涯理解できない困難と辛苦と発見と歓喜の入り混じった旅をしている。『二年目』の辛い記憶を、あいつらはただの思い出に昇華出来ただろうか。出来たのだろう。三人の顔は穏やかだった。来年への期待にきらきらしていた。
「頑張れよ」
 それしか言えない。だから言う。頑張れ。
 死にかけるかもしれないけど俺たちが無事を祈っている。間違ったことをしているかもしれないけど俺たちが全部肯定する。帰れなくなっても、俺たちはその瞬間までずっとお前たちを信じて待っている。だから。
「頑張れ」
 言って、感傷に浸っている自分に気づく。セルキーらしくない。自由に奔放に楽観的にその日暮らしで。セルキーとはそういう種族であるはずなのに。生業が錬金術師であることからセルキーの規格外に分類されそうな気はするけれど。
 だから彼は、今日だけ、ラムゼイのように、酔うことにした。
 酔っ払いのたわ言なら、重荷になんてならないだろう。

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少年陰陽師・紅勾を中心に絶えず何かしら萌えor燃えている学生。
楽観主義者。突っ込み役。言葉選ばなさに定評がある。
ひとつに熱中すると他の事が目に入らない手につかない。

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