Be praying. Be praying. Be praying.
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ってわけで、オリジですが。
「……ねぇ、空気重たいんだけど」
耐え切れなくなって呟いた。ついでに小突く。だけれど重たい空気の元凶はんーとかうーとか意味もなく喉を鳴らしているだけで聞き入れてくれる様子は皆無だった。
趣味で通っているバレエ教室主催の舞台のDVDを、何となく興味を持ってくれたようだから、見せていたところだった。はじめて踊ったパ・ド・ドゥ。リフトしてもらうためにダイエットに励んだことは余談だ。
「…触りすぎだろ、これ」
「……いや、振付じゃん」
ピルエット、アラベスク、リフト。パ・ド・ドゥとして必要不可欠な要素を、触りすぎ、とか言われても、困る。
彼氏は唐突に画面から私に向き直って、くわりと吠えそうな勢いで力説し始めた。
「何で腰つかむ必要があるんだよ。さっき一人でも回ってたじゃないか」
「支えられてた方がいっぱい回転できるし! というかそもそも何度も言うけど、これ、こう言う振付なの! プロだってこんななの!」
「いや、これは絶対下心あるね! やらしんだよ、この男の手つき!」
「ないない、絶対違う! 何見てんのあんた、何よりあんたがそんな目で見てる証明じゃない!」
「いーや絶対正しい、だいたい衣装がやらしいだろこの男」
「バレエダンサー全否定!? 白タイツとか普通だし、てかまだましな方だって。知ってる? ほぼ腰巻だけみたいな状態の衣装だって存在するんだよ?」
議論が平行線である。そもそも何でこんなに噛みついてくるんだろう、彼。一般人と趣味人の壁が今、はっきりと見えた。空高くまで、海深くまでそびえ立つ不可視の境界壁は侵入者を拒み、よしんば越えようとしたところで価値観と言う理解できないバリアの二重構造、そして哀れな挑戦者の屍が、航空機が次々と謎の墜落を遂げるという魔のデルタ地区の如くその付近に累々と転がっている……――なんて。
「振付振付って、そんなこと言うけど、嫌じゃなかったのかお前は」
この時彼の声がどこかいじけていたことに気付けなかったのは私の失態だった。
「そんなわけないじゃん。パ・ド・ドゥなんだよ? 憧れだったんだ、嬉しかったよ」
「……あ、そ」
「……ねぇ、どうしたの?」
不機嫌な声。覗き込んだ顔はぶすっとふくれっ面で、目があった瞬間逸らされる。テレビから流れてくるアレグロの音楽が嫌に空しく聞こえた。
「いーや?」
怒っている、わけじゃない、と思う。むくれている? 私以外の誰かを敵視していて、その誰かを私が敵視しないことに苛立っている。…あくまで想像、だけど。
「抱きしめたら怒るくせに俺以外の誰かに触られても嬉しいんだーって思っただけ」
たぶん、言葉尻だけ捕まえたら強烈な皮肉だったのかもしれない。ただ普段の彼がそんなキャラじゃないことと、今の彼もそんなキャラじゃないことと、その声音がどう聞いても屁理屈をこねくり回す子どもそのものだったから、胸のあたりがむかむかする前に、むかむかは全部二酸化炭素とと一緒に外に出ていた。
口元と頬が、勝手に、ひくっと動いた。そのままつり上がって、軽く固定される。
「おおばか」
「なっ」
口を突いていた暴言に、彼は唖然と口を開けた。
「舞台と現実をごっちゃにするな、ばか」
第一人前で密着しようとする方が悪い。二人の時なら構わないのに調子に乗るから反射で引いた肘が思いっきり入る羽目になるんだ。いや、そりゃあ、確かにやりすぎだったと、思わないでもないけれど。
もぞもぞ移動して、彼の正面まで来て、じっと顔を見つめたら居心地悪げに逸らされたからちょっと面白くなって笑って、もう一度私の方を見た彼を今度は無視して、投げ出されていた足の間に入り込んだ。背を凭れさせるとあたふたしているのがじかに伝わってかなり面白かった。泳ぎそうな手が危ないなぁと思ったから両方とも掴んで私の体の前に固定しておく。
特等席完成。
仰のいても彼の顔が見えないことだけが難点。
「舞台は振付じゃんか。こう言うことはしないもん。嫉妬するのは勝手だけど方向性色々間違ってるよ、要らないエネルギー使うよか私のために使う気ない? 取り敢えずこのまましばらく。ねぇあと他の人の見たい踊りあるけど変えていいよね?」
返事を待たずに近くに転がっていたリモコンを取ってキャプチャーページに移動する。どこだったかなーと適当に見ていると、唐突に声が降って来た。
「…お、おう。おう、いいぜ。付き合う」
「…………反応、おっそ」
突っ込んで笑う。思いっきり体重をかけてやったらまたあたふたしたのが面白かったからもう一度「おおばかー」と笑ってやった。
耐え切れなくなって呟いた。ついでに小突く。だけれど重たい空気の元凶はんーとかうーとか意味もなく喉を鳴らしているだけで聞き入れてくれる様子は皆無だった。
趣味で通っているバレエ教室主催の舞台のDVDを、何となく興味を持ってくれたようだから、見せていたところだった。はじめて踊ったパ・ド・ドゥ。リフトしてもらうためにダイエットに励んだことは余談だ。
「…触りすぎだろ、これ」
「……いや、振付じゃん」
ピルエット、アラベスク、リフト。パ・ド・ドゥとして必要不可欠な要素を、触りすぎ、とか言われても、困る。
彼氏は唐突に画面から私に向き直って、くわりと吠えそうな勢いで力説し始めた。
「何で腰つかむ必要があるんだよ。さっき一人でも回ってたじゃないか」
「支えられてた方がいっぱい回転できるし! というかそもそも何度も言うけど、これ、こう言う振付なの! プロだってこんななの!」
「いや、これは絶対下心あるね! やらしんだよ、この男の手つき!」
「ないない、絶対違う! 何見てんのあんた、何よりあんたがそんな目で見てる証明じゃない!」
「いーや絶対正しい、だいたい衣装がやらしいだろこの男」
「バレエダンサー全否定!? 白タイツとか普通だし、てかまだましな方だって。知ってる? ほぼ腰巻だけみたいな状態の衣装だって存在するんだよ?」
議論が平行線である。そもそも何でこんなに噛みついてくるんだろう、彼。一般人と趣味人の壁が今、はっきりと見えた。空高くまで、海深くまでそびえ立つ不可視の境界壁は侵入者を拒み、よしんば越えようとしたところで価値観と言う理解できないバリアの二重構造、そして哀れな挑戦者の屍が、航空機が次々と謎の墜落を遂げるという魔のデルタ地区の如くその付近に累々と転がっている……――なんて。
「振付振付って、そんなこと言うけど、嫌じゃなかったのかお前は」
この時彼の声がどこかいじけていたことに気付けなかったのは私の失態だった。
「そんなわけないじゃん。パ・ド・ドゥなんだよ? 憧れだったんだ、嬉しかったよ」
「……あ、そ」
「……ねぇ、どうしたの?」
不機嫌な声。覗き込んだ顔はぶすっとふくれっ面で、目があった瞬間逸らされる。テレビから流れてくるアレグロの音楽が嫌に空しく聞こえた。
「いーや?」
怒っている、わけじゃない、と思う。むくれている? 私以外の誰かを敵視していて、その誰かを私が敵視しないことに苛立っている。…あくまで想像、だけど。
「抱きしめたら怒るくせに俺以外の誰かに触られても嬉しいんだーって思っただけ」
たぶん、言葉尻だけ捕まえたら強烈な皮肉だったのかもしれない。ただ普段の彼がそんなキャラじゃないことと、今の彼もそんなキャラじゃないことと、その声音がどう聞いても屁理屈をこねくり回す子どもそのものだったから、胸のあたりがむかむかする前に、むかむかは全部二酸化炭素とと一緒に外に出ていた。
口元と頬が、勝手に、ひくっと動いた。そのままつり上がって、軽く固定される。
「おおばか」
「なっ」
口を突いていた暴言に、彼は唖然と口を開けた。
「舞台と現実をごっちゃにするな、ばか」
第一人前で密着しようとする方が悪い。二人の時なら構わないのに調子に乗るから反射で引いた肘が思いっきり入る羽目になるんだ。いや、そりゃあ、確かにやりすぎだったと、思わないでもないけれど。
もぞもぞ移動して、彼の正面まで来て、じっと顔を見つめたら居心地悪げに逸らされたからちょっと面白くなって笑って、もう一度私の方を見た彼を今度は無視して、投げ出されていた足の間に入り込んだ。背を凭れさせるとあたふたしているのがじかに伝わってかなり面白かった。泳ぎそうな手が危ないなぁと思ったから両方とも掴んで私の体の前に固定しておく。
特等席完成。
仰のいても彼の顔が見えないことだけが難点。
「舞台は振付じゃんか。こう言うことはしないもん。嫉妬するのは勝手だけど方向性色々間違ってるよ、要らないエネルギー使うよか私のために使う気ない? 取り敢えずこのまましばらく。ねぇあと他の人の見たい踊りあるけど変えていいよね?」
返事を待たずに近くに転がっていたリモコンを取ってキャプチャーページに移動する。どこだったかなーと適当に見ていると、唐突に声が降って来た。
「…お、おう。おう、いいぜ。付き合う」
「…………反応、おっそ」
突っ込んで笑う。思いっきり体重をかけてやったらまたあたふたしたのが面白かったからもう一度「おおばかー」と笑ってやった。
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